原爆症認定申請却下処分取消等請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行ヒ191
- 事件名
- 原爆症認定申請却下処分取消等請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 裁判年月日
- 2020年2月25日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄自判
- 裁判官
- 宇賀克也、戸倉三郎、林景一、宮崎裕子、林道晴
- 原審裁判所
- 広島高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、広島市への原子爆弾投下により被爆した原告が、両眼白内障(放射線白内障)を申請疾病として原子爆弾被爆者援護法11条1項に基づく原爆症認定を申請したところ、厚生労働大臣から却下処分を受けたため、被告国に対しその取消しを求めた事案の上告審である。 原告は、昭和19年生まれの女性で、昭和20年8月6日(生後11箇月)に爆心地から約2.4km離れた広島電鉄己斐駅のプラットホームで母に背負われた状態で被爆した被爆者である。平成4年頃(47歳頃)に両眼白内障と診断されて以降、通院してカリーユニ点眼液の処方を伴う定期的な経過観察を受けており、平成8年4月以降は健康管理手当の支給を受けている。平成20年3月に白内障を申請疾病として原爆症認定を申請したが、平成21年12月に却下処分を受けた。原審口頭弁論終結日においても白内障手術は受けておらず、矯正視力は右眼0.9、左眼1.2であった。 【争点】 経過観察(カリーユニ点眼液の処方を含む)を受けている被爆者について、原爆症認定の要件の一つである「要医療性」(現に医療を要する状態にあること)が認められるかが争点となった。 原審は、放射線白内障は進展しないものが多いとはいえ進展可能性を完全に否定できず、加齢による悪化も予想されるとして、経過観察が手術を見据えた治療目的で必要不可欠であり要医療性があると判断していた。 【判旨】 最高裁は原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第1審判決を取り消し、原爆症認定却下処分の取消請求を棄却した。 経過観察を受けている被爆者が「現に医療を要する状態にある」と認められるためには、当該経過観察自体が治療目的の現実的必要性に基づいて行われている特別の事情、すなわち対象疾病が類型的に悪化・再発のおそれが高く、経過観察が疾病治療のために必要不可欠かつ積極的治療行為(治療適応時期の見極めや一般的予防行為を超える治療行為)の一環と評価できる特別の事情が必要であると判示した(同日言渡しの第三小法廷判決を引用)。 本件について、放射線白内障は多くが進展せず、手術適応に至っても日帰りの水晶体超音波乳化吸引術・眼内レンズ移植術で視力回復が可能であるため、手術適応に至る医学的蓋然性は高くなく悪化結果の重大性も認められないこと、現に原告は長期間手術適応に至っていないこと、経過観察は手術適応の有無の判断(患者の主観的な日常生活上の支障が重視される)にとどまること、カリーユニ点眼液は老人性白内障の進行抑止効果があるにすぎず放射線白内障の治療とはいえないことから、積極的治療行為の一環と評価できる特別の事情は認められず、要医療性は否定されると結論付けた。 本判決は同日の別件判決(平成30年(行ヒ)第215号)とともに、原爆症認定における要医療性の判断枠組みを明確化した重要判例であり、単なる定期観察や経過観察薬の処方のみでは要医療性が認められないことを示した点に実務的意義がある。