発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、原告が、氏名不詳者によってインターネット上のウェブサイト「Pornhub」に投稿された動画(本件投稿動画)は、原告が著作権を有する動画(原告動画)と同一であり、当該投稿行為は原告の公衆送信権又は送信可能化権を侵害することが明らかであると主張して、経由プロバイダである被告ソフトバンク株式会社に対し、プロバイダ責任制限法(現・情報流通プラットフォーム対処法)4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた事案である。 原告が開示を求めたのは、(1)本件投稿動画が投稿されたサイトに最後にログインした者(最終ログイン者)に関する情報(本件発信者情報1)、及び(2)最終ログイン時に割り当てられたIPアドレスを本件投稿行為の日時頃に割り当てられていた者に関する情報(本件発信者情報2・3)の3つである。本件投稿行為は平成29年8月23日に行われた一方、最終ログインは平成31年4月28日であり、投稿行為から約1年8か月後のログインに関する情報の開示が問題となった。 【争点】 主要な争点は、(1)権利侵害の明白性(原告動画の著作物性、原告の著作者・著作権者性、原告動画と本件投稿動画の同一性)、(2)本件各発信者情報が法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか、(3)被告が「開示関係役務提供者」に該当するか、である。特に、投稿行為から相当期間経過後のログイン情報や、投稿行為時に当該ログインIPアドレスが割り当てられていた契約者情報が、開示対象の発信者情報に含まれるかが中心的争点となった。 【判旨】 東京地裁民事第47部は、争点2から判断し、原告の請求をいずれも棄却した。裁判所は、本件発信者情報1について、本件投稿行為から約1年8か月経過後のログイン情報であり、当該ログイン時に投稿行為が行われたものではないことから、法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないことは明らかであるとした。最終ログイン者が投稿者本人である蓋然性が高いとの主張についても、1年8か月もの期間経過を考慮すれば同一人物ではない可能性が相当程度残るとして排斥した。また、省令が「発信者その他侵害情報の送信に係る者」の情報も開示対象と定めていることを根拠とする主張に対しても、最終ログイン者と投稿者の関係性を認めるに足る証拠はなく、文言上、投稿行為を行った者以外の最終ログイン者の情報が直ちに開示対象になるとは解されないと判断した。 本件発信者情報2及び3についても、同様の理由により、最終ログイン時から約1年8か月前の投稿行為日時頃に当該IPアドレスを割り当てられていた者が本件投稿行為者であるとは認め難いとして、開示対象性を否定した。 本判決は、SNS等の「ログイン型」投稿サービスにおいて、投稿行為自体の通信記録ではなく、後日のログインに関する発信者情報を開示請求できるかという実務上重要な論点について、投稿行為とログインとの時間的近接性を重視し、期間が大きく離れている場合には同一性・関連性を認めにくいとした先例的意義を有する。令和3年のプロバイダ責任制限法改正により「特定発信者情報」としてログイン情報等の開示制度が整備される以前の、旧法下における解釈を示すものである。