AI概要
【事案の概要】 本件は、平成23年10月、滋賀県大津市の市立中学校2年生であった亡Dが自宅マンションから転落死したことにつき、その両親である被控訴人らが、亡Dの自殺の原因は同学年の生徒であった控訴人A、控訴人B及び少年Cから受けた一連のいじめ行為にあるとして、控訴人らに対し共同不法行為(民法719条)に基づき、亡Dから相続した死亡逸失利益・慰謝料及び被控訴人ら固有の慰謝料等の賠償を求めた事案である。いじめ行為には、こかし合い、首絞め、ズボンずらしから、顔面殴打、頚部踏みつけ、制汗スプレーの吹き付け、体育祭での手足緊縛や蜂の死骸を食べさせようとする罰ゲーム、自宅にまで押しかけての金品持去りなど、陰湿・悪質な行為が1か月程度の間に頻回に行われたことが認定された。原審(大津地裁)は共同不法行為の成立を認め、各自約1878万円の連帯支払を命じたため、控訴人らが敗訴部分を不服として控訴した。なお、学校設置者である大津市との関係では原審で訴訟上の和解が成立し、同居親等に対する請求は棄却されて確定している。本事件は、いわゆる大津市中学校いじめ自殺事件として社会的関心を集め、いじめ防止対策推進法制定の契機の一つとなった事案である。 【争点】 (1)いじめ行為と亡Dの自殺との間の相当因果関係の存否、(2)故意の不法行為について過失相殺の規定の適用・類推適用の可否、(3)過失相殺を基礎付ける具体的事情と減額割合が主な争点となった。控訴人らは、自殺は亡D自身の意思的行為であり、発達障害等の心因的要因、両親の別居・離婚示唆を含む劣悪な家庭環境、母親による体罰や病気可能性の告知、交友関係への過剰介入等が自殺に寄与したと主張して、8〜9割の過失相殺を求めた。被控訴人らは、故意のいじめ行為に過失相殺を適用・類推適用すべきでないと反論した。 【判旨】 大阪高裁は、いじめ行為が1か月と比較的短期間ながら、暴力行為や極めて陰湿・悪質な嫌がらせを含み頻回に行われ、亡Dに孤立感・無価値感・無力感・閉塞感を抱かせる悪質・執拗なものであったと認定した。加えて、いじめが自殺の危険因子となることは、本件当時すでに学術的知見及び社会一般の認識として確立しており、文部科学省通知や後のいじめ防止対策推進法の立法経緯からも裏付けられるとして、本件各いじめ行為と亡Dの自殺との間に相当因果関係を肯定した。他方、控訴人らに自殺の結果についての認識・認容までは認め難く、生命侵害との関係ではなお過失行為としての側面を有するから、故意性を理由に過失相殺を一律に否定することはできないとした。そのうえで、自殺が亡D自身の意思的選択であること、亡Dが祖父母宅からの金銭窃取により安息の場を失ったという落ち度があること、両親の別居等により安息の場となるべき家庭環境が整備されなかったこと、特に母親による体罰や発達障害の可能性の不用意な告知が亡Dの精神的動揺を招いたこと等を、過失相殺(類推適用を含む)を基礎付ける事情として考慮し、被控訴人ら側の過失割合を4割と認定した。この結果、損害額3298万4231円から4割減額し、既払の災害共済給付金1400万円及び大津市からの和解金650万円を遅延損害金に順次充当の上控除して、被控訴人らそれぞれに201万9568円の連帯支払を命じ、原判決を変更した。本判決は、いじめと自殺の相当因果関係及び過失相殺の限界を示した重要な先例であり、家庭環境や被害者側の事情も損害の公平な分担の観点から斟酌されうることを明らかにした点で、学校事故・いじめ訴訟の実務に大きな影響を与えるものである。