債務確認請求本訴,求償金請求反訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30受1429
- 事件名
- 債務確認請求本訴,求償金請求反訴事件
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日
- 2020年2月28日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄差戻
- 原審裁判所
- 大阪高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、貨物運送業を営む資本金300億円以上の大手株式会社(被上告人)に雇用されていたトラック運転手(上告人)が、業務中に起こした交通事故について、被害者遺族に賠償金を支払ったうえで、使用者である会社に対して求償権を取得したとして、求償金等の支払を求めた事案である。上告人は平成17年に被上告人に雇用され、トラック運転手として荷物運送業務に従事していたところ、平成22年7月、業務中に信号機のない交差点を右折する際、自転車に乗っていたAに接触させ、Aを死亡させる事故を起こした。被上告人は事業に使用する車両全てについて自動車保険契約等を締結していなかった(いわゆる自家保険政策)。Aの遺族のうち二男は被上告人を相手に訴訟を提起し、被上告人が和解金1300万円を支払ったが、長男は上告人を相手に訴訟を提起し、控訴審で1383万円余りの支払を命じる判決が確定したため、上告人は1552万円余りを弁済供託した。そこで上告人は、自らが支払った賠償金について、使用者である被上告人に対する求償を求めて本訴を提起した。原審(大阪高裁)は、民法715条1項は被害者保護のための規定にすぎず、被用者から使用者への求償の根拠にはならないとして、上告人の請求を棄却した。 【争点】 使用者責任(民法715条1項)が認められる場合において、使用者に代わって第三者に損害を賠償した被用者が、使用者に対して求償(いわゆる逆求償)することができるか、できるとすればどのような範囲かが争点となった。従来、使用者が被害者に賠償した後に被用者へ求償する場面(正求償)については、信義則上相当な限度に制限されるとする最高裁判例(昭和51年茶屋町事件判決)があったが、逆方向の求償の可否については最高裁の判断が示されていなかった。 【判旨】 最高裁は原判決を破棄し、大阪高裁に差し戻した。使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、事業範囲の拡張により第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から認められるものである。この趣旨からすれば、使用者は被害者に対する関係のみならず、被用者との関係においても損害の全部又は一部を負担すべき場合があると解すべきである。そして、使用者が被害者に賠償した場合に信義則上相当と認められる限度で被用者に求償できるのと、被用者が先に賠償した場合とで使用者の負担が異なる結果となることは相当でない。したがって、被用者が使用者の事業執行について第三者に損害を加え賠償した場合には、事業の性格・規模、施設の状況、業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、損害の予防又は分散についての使用者の配慮の程度等、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。 【補足意見】 菅野博之・草野耕一両裁判官の補足意見は、本件のように大規模上場会社が貨物運送事業で専属的運転手を使用していた場合、通常業務中の事故について被用者の負担部分は僅少となることが多く、零となる場合もあり得ると指摘した。使用者は偶発的損失を合理的に分散でき、株主も投資ポートフォリオでリスク調整が可能であるのに対し、使用者が任意保険に加入しない自家保険政策を採った結果、被用者は保険を通じた訴訟支援等の恩恵を受けられなかった点も、被用者の負担を小さくする方向に働く要素であるとした。三浦守裁判官の補足意見は、貨物自動車運送事業法が許可基準として十分な損害賠償能力(任意保険加入等)を求めている趣旨に照らし、使用者が任意保険を締結せず自家資金で賠償を行いながら被用者に負担を求めることは、許可基準や使用者責任の趣旨、損害の公平な分担の見地から相当でないと述べた。