AI概要
【事案の概要】 本件は、特許無効審判請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求めた訴訟である。被告(株式会社MTG)は、発明の名称を「美容器」とする特許(特許第5847904号)の特許権者であり、その特許に係る発明は、ハンドルに固定された支持軸と、その先端に軸受け部材を介して回転可能に支持された回転体とを備え、回転体を身体上で転動させて美肌効果等を得るための器具に関するものである。具体的には、軸受け部材から弾性変形可能な係止爪を突き出し、回転体の内周の段差部に係止させる構造に特徴がある。 原告(株式会社ファイブスター)は、本件特許は公知文献から容易に想到し得たものであり進歩性を欠くと主張して無効審判を請求したが、特許庁はこれを不成立とする審決をしたため、原告が同審決の取消しを求めて提訴した。原告は、素肌用ローラーに関する甲1文献(特開平2-104359号公報)を主引用例とし、マッサージ器具に関する甲2文献(米国特許出願公開第2010/0191161号)のプラグ構造(弾性的なラッチアーム及びフランジを有する部材)を組み合わせれば本件発明に容易に到達できると主張した。 【争点】 進歩性の判断において、甲1文献に記載された引用発明の回転ロッド(軸受け部材)を、甲2文献に記載されたプラグの構造に置き換える動機付けがあるか、特に甲2文献のプラグが本件発明の「軸受け部材」に相当する機能を有するかが主たる争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。 裁判所は、甲2文献の記載から、プラグ200・220は二つのモジュールを繋げて固定するための部材であって、ロックピンとモジュールとの間に介在してモジュールを回転可能に支持する軸受け部材として用いられているとはいえないと判断した。すなわち、甲2文献のプラグは軸受けの機能を有しないものであるから、引用発明において軸受け部材として機能する回転ロッドと置き換える動機付けは存在しないとした。 原告は、プラグとロックピンの関係は引用発明の回転ロッドと支持軸との関係と同じであり、モジュールがロックピンの回りを回転できるから軸受けとして機能すると主張したが、裁判所は、シャフトの直径が開口より僅かに小さいという記載はあくまで挿入可能性を示すものにすぎず、プラグが軸受けとして機能することを意味しないと退けた。また、回転ロッドとプラグが「回転かつ着脱可能に取り付けるための部材」である点で共通するとしても、軸受け機能の欠如という本質的差異を埋めるものではないと判断した。 本件発明2についても、本件発明1の構成要件を全て含む発明であるから、同様の理由により進歩性が認められるとして、原告の請求を棄却した。 本判決は、引用発明相互の組合せによる容易想到性判断において、単に部材の用途や外形の類似性にとどまらず、その技術的機能(本件では軸受けとしての機能の有無)に着目して動機付けの有無を厳格に検討したものとして、進歩性判断の実務に示唆を与える事例といえる。