損害賠償等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 控訴人(原告)は、朝日新聞の記者であり、平成3年にいわゆる従軍慰安婦問題に関する新聞記事(原告記事A及びB)を執筆・掲載した。被控訴人Y(被告Y)は、平成24年12月頃から平成26年11月頃までの間に、同記事の内容が捏造であるなどとする論文等を書籍・雑誌に掲載するとともに、ウェブサイトにも投稿した。また、被控訴人会社(被告会社)は、被控訴人Yの論文と同趣旨の記事2本を「週刊文春」に掲載した。控訴人は、これらの論文等・記事の掲載により名誉が毀損され、名誉感情・プライバシー・平穏な生活を営む法的利益等が侵害されたと主張し、ウェブサイト上の論文の一部削除、「週刊文春」への謝罪広告の掲載、及び損害賠償金の支払(被控訴人ら連帯で1100万円、被控訴人Yに対し550万円、被控訴人会社に対し1100万円)を求めた。原審は控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴人が控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)被控訴人Yの各論文及び被控訴人会社の各記事における「捏造」等の表現が事実の摘示か意見・論評か、(2)摘示された事実の真実性又は真実相当性の有無、(3)論評としての公正性、(4)公共性・公益目的の有無である。特に、控訴人が元慰安婦Zの「キーセンに身売りされた」という経歴を知りながら意図的に記事に記載しなかったか否か(裁判所認定摘示事実1)、及び義母の裁判を有利にするために事実と異なる記事を書いたか否か(裁判所認定摘示事実2)が中核的争点となった。控訴審では、令和元年に発見されたZの「証言テープ」にキーセンに関する言及がないことを根拠とする控訴人の新主張も争点となった。 【判旨】 東京高裁は、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決を維持し、控訴を棄却した。裁判所は、被控訴人Yの各論文等における「捏造」との表現は、控訴人がZのキーセンへの身売りの経歴を知りながら権力による強制連行との前提に都合が悪いためあえて記載しなかったとの事実を摘示するものと認定した。その上で、控訴人が原告記事A執筆当時にZの上記経歴を知っていたとまでは認められないとしつつも、被控訴人Yが閲読した韓国紙の記事、平成3年訴訟の訴状、支援団体代表の論文等の資料を総合すれば、被控訴人Yが上記事実を真実と信じたことには相当の理由があると判断した。控訴審で新たに提出された「証言テープ」についても、聞き取り調査の全てを記録したものとは認め難いとし、控訴人自身の従前の供述との整合性の欠如も指摘して、証言テープに基づく主張を退けた。また、公共性・公益目的についても、慰安婦問題に関する朝日新聞の報道が国内外に与えた影響の大きさに照らし、控訴人の就職先を含め公共の利害に関わる事項であると認め、被控訴人らの免責を認めた。