過失運転致死傷被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、当時85歳の被告人が、平成30年1月9日午前8時25分頃、前橋市内の自宅駐車場から普通乗用自動車の運転を開始し、約540メートル先の道路上で対向進行してきた自転車2台に衝突する事故を起こし、自転車を運転していたA(当時16歳)を脳挫傷等により死亡させ、B(当時18歳)に入院加療202日間を要する脳挫傷等の傷害を負わせた過失運転致死傷被告事件である。事故現場付近にブレーキ痕はなく、被告人は事故時の記憶がなかった。被告人はかねてから低血圧やめまいの症状があり、複数の医療機関を受診していたほか、医師や家族から運転を控えるよう注意を受けていた。検察官は禁錮4年6月を求刑した。 【争点】 主たる争点は、被告人に自動車の運転を差し控えるべき注意義務(運転避止義務)の前提となる、低血圧による意識障害を経由して人を死傷させるという因果経過に対する予見可能性が認められるか否かである。検察官は、主位的訴因として「低血圧によりめまいや意識障害を生じたことがあり、医師から運転しないよう注意されていた」こと、予備的訴因として「血圧変動等によりめまいや意識障害を生じたことなどがあり、医師や家族から運転しないよう注意されていた」ことを運転避止義務の根拠として主張した。弁護人は、被告人に本件事故に対する予見可能性はなく無罪であると主張した。 【判旨(量刑)】 無罪。裁判所は、過失運転致死傷罪の成立には、一般的・抽象的な危惧感では足りず、人の死傷という結果及びその因果関係の基本的部分に対する具体的な予見可能性が必要であるとした上で、本件では低血圧による「意識障害」が因果経過の予見可能性の対象に含まれると判示した。その上で、主位的訴因については、被告人の過去のめまいの原因が低血圧であると認める医学的証拠がなく、本件事故前に低血圧による意識障害が生じたとも認定できず、医師が意識障害のおそれを理由に運転を止めるよう注意した事実も認められないとした。予備的訴因についても、被告人の低血圧の症状、入浴時の体調不良、物損事故、高齢等の各事情は、いずれも自動車運転中の意識障害の危険を予見させるものとはいえないとした。さらに、被告人が服用していた排尿障害の薬(フリバス・ユリーフ)には血圧を下げる副作用があり、被告人が処方量を超えて服用していた可能性が高いところ、この副作用について医師等から説明を受けた証拠はなく、薬の副作用等による意識障害は被告人において予見不可能であったことが、予見可能性に対する合理的な疑いを生じさせるとして、被告人に運転避止義務を負わせることはできないと結論づけた。