AI概要
【事案の概要】 本件は、国営諫早湾土地改良事業(諫早湾干拓事業)において、被告(国)が諫早湾の湾奥部に全長7050mの潮受堤防を築造し、約35.42k㎡を締め切って調整池を造成・淡水化したところ、諫早湾内で漁業を営む原告ら(小長井町漁協・国見漁協・瑞穂漁協の組合員33名)が、潮受堤防の締切りにより諫早湾内の漁場環境が悪化し、漁業行使権を侵害されたと主張して、漁業行使権に基づく妨害排除請求として、潮受堤防の北部及び南部排水門の開門操作を求めた事案である。平成9年4月14日の締切り以来、排水門は閉じられたまま調整池の水位管理が行われており、原告らはアサリ養殖業、タイラギ漁業、カキ養殖業、漁船漁業、ノリ養殖業等に従事している。 【争点】 (1) 漁業行使権に基づく物権的請求の可否、(2) 締切り後に免許された漁業権に基づく漁業行使権侵害の成否、(3) 漁業行使権侵害の有無及び潮受堤防の締切りとの因果関係、(4) 潮受堤防の締切りの違法性、(5) 漁業補償契約の効力、(6) 憲法秩序違反の有無、(7) 権利濫用の成否。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、争点(1)について、漁業行使権は漁業権から派生しこれを具体化した権利として物権的性格を有し、第三者が漁業行使権の円満な行使を侵害するときは妨害排除請求ができると判断した。争点(2)について、本件3漁協の漁業権は締切り後の平成25年9月1日以後に免許されたものであるが、存続期間経過後に同内容の漁業権が反復継続して免許されてきた経緯から、実質的に同一の漁業権が存続していると評価でき、締切りによる侵害を観念する余地があるとした。 しかし、争点(3)の因果関係の検討において、潮受堤防の締切りにより諫早湾内の潮流速が低下し、成層化が多少進行し、湾奥部・湾央部での貧酸素化や浮泥堆積の一因となっていることは認めたものの、個々の漁業種ごとの検討では、アサリ養殖業については大量斃死と締切りとの因果関係が認められず、タイラギ漁業については有明海全域での減少であり締切りに起因するとは断定できず、カキ養殖業については締切り前に養殖実績がなく漁場環境悪化を論じる前提を欠き、漁船漁業については全国的な漁獲量減少傾向との区別ができず、ノリ養殖業については赤潮増加が締切りによるとは認められないとして、いずれの漁業種についても漁場環境を悪化させたとは認められないと結論づけた。以上から、潮受堤防の締切りによる漁業行使権侵害は認められないとして、その余の争点について判断するまでもなく原告らの請求を棄却した。