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【事案の概要】 原告(夫)と被告A(妻)は平成22年に婚姻し、不妊治療として体外受精に取り組んでいた。平成26年4月10日、夫婦は体外受精に関する同意書に署名押印し、採卵・受精・胚の凍結保存が行われた。しかし、同月12日に原告は別居を開始した。その後、被告Aは平成27年4月22日、融解胚移植の同意書の夫氏名欄に自ら筆跡を変えて原告の氏名を記載し(偽造)、被告医療法人Bが開設する不妊治療クリニックにおいて融解胚移植を受け、子を出産した。原告は、被告Aが同意書を偽造して無断で融解胚移植を受けたこと、被告医療法人B及びその理事長である被告Cが原告本人への意思確認を怠ったことが共同不法行為に当たるとして、被告ら3名に対し連帯して2000万円の損害賠償を求めた。 【争点】 ①被告Aの責任原因(同意書の偽造による自己決定権侵害の有無)、②被告医療法人Bらの責任原因(原告への直接の意思確認義務違反の有無)、③原告の損害額。被告Aは、原告が一貫して不妊治療に同意しており、代筆について黙示の同意があったと主張した。被告医療法人Bらは、既に本件同意書1で有効な同意を得ており、原告から撤回の意思表示もなく、日本産科婦人科学会の見解にも準拠した対応であったと主張した。 【判旨】 裁判所は、被告Aの不法行為責任を認め、被告医療法人Bらの責任は否定した。被告Aについて、原告は別居直前まで体外受精に協力し、別居後も一定期間は不妊治療の継続を黙認していたものの、遅くとも平成26年12月20日の時点で不妊治療に消極的な態度を示しており、本件移植時点では同意していなかったと認定した。被告Aも、原告が同意していないことを認識していたか容易に認識し得たと判断し、原告の「子をもうけるかどうかという自己決定権」を侵害した不法行為が成立するとした。一方、被告医療法人Bらについては、本件同意書1により原告の同意を得ており、原告から撤回の意思表示がなかったこと、同意書の署名の筆跡から偽造が容易に判明するものとはいえないこと、学会の見解上も直接の電話確認等は推奨されていないことから、意思確認義務違反は認められないとした。損害については、得べかりし収入・出産費用・養育費等の個別損害は相当因果関係を否定し、慰謝料800万円及び弁護士費用80万円の合計880万円を認容した。