損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 平成23年3月11日の東京電力福島第一原発事故(本件事故)により、福島県南相馬市小高区(Ⅰ区)又はその隣接区域に生活の本拠を有していた住民ら(一審原告ら)が、原賠法3条1項に基づき、東京電力(一審被告)に対し、避難生活による精神的苦痛に対する慰謝料及び「Ⅰに生きる」ことの喪失(包括生活基盤の崩壊・変容)による慰謝料の支払を求めた集団訴訟の控訴審である。一審原告らは、一審被告が既払いの850万円(月額10万円×85か月)では到底足りず、避難慰謝料665万円及び包括生活基盤喪失の慰謝料1000万円の合計1831万円(弁護士費用含む)の支払を求めた。原審は一審被告既払額850万円に加え300万円の慰謝料を認容していた。 【争点】 (1) 避難慰謝料の額(月額10万円が相当か、賠償対象期間の終期はいつか) (2) 「Ⅰに生きる」ことの喪失(包括生活基盤の変容)が避難慰謝料とは別個の損害として賠償対象となるか (3) 包括生活基盤変容に基づく慰謝料の額 (4) 本件事故時に生活の本拠をⅠ区内に置いていなかった一審原告3名(大学進学者・胎児・海外単身赴任者)の請求の可否 (5) 中間指針等の定める賠償額が裁判所を拘束する規範となるか 【判旨】 当裁判所は、原判決を変更し、一審被告の既払額850万円に加え、1人当たり110万円(慰謝料100万円+弁護士費用10万円)の支払を命じた(原審認容額330万円から減額)。 避難慰謝料について、中間指針等に基づく月額10万円の算定には合理性があり、入院慰謝料(月額12万6000円)を参考にしつつ生活費増加分を含む点も不合理ではないと判断した。賠償対象期間の終期も、避難指示解除後1年9か月の平成30年3月末までとした一審被告の主張に不合理な点はないとし、既払額850万円が避難慰謝料として相当であるとした。 包括生活基盤の変容に基づく慰謝料については、地域住民が生活の本拠を中心とする生活全般の基盤において継続的かつ安定的に生活する利益は、憲法13条に根拠を有する人格的利益であり、法的保護に値すると判示した。避難指示解除後もⅠ区の人口は大幅に減少し(事故前12,842人→3,578人)、高齢化率が約50%に達し、生活インフラ・医療・農業等の回復が不十分であることから、本件事故前の生活基盤が著しく変容しており、これは避難慰謝料とは別個の損害として賠償対象となると認めた。ただし、共通損害として認定する以上、コミュニティや伝統の喪失等の個別性の大きい事情は考慮外とし、帰還困難区域の一括賠償額(1000万円)との比較や帰還自体は可能であること等を考慮して、本件生活基盤変容に基づく共通損害の慰謝料は100万円が相当とした。 なお、本件事故時にⅠ区に生活の本拠を有していなかった3名の一審原告(大学進学中の者、胎児、海外単身赴任者)の請求はいずれも棄却された。