AI概要
【事案の概要】 申立人は、強要未遂等の被告事件の捜査中に差し押さえられた、被害者Aに係る住民票の写し、戸籍の全部事項証明書及び戸籍の附票の写し(以下「本件各押収物」)の還付を検察官に求めた。本件各押収物は、申立人がA名義の委任状を偽造し(有印私文書偽造)、地方自治体の職員に提出・行使して(偽造有印私文書行使)不正に取得したものであった。申立人は本件基本事件で懲役刑の有罪判決を受け、偽造委任状の没収は言い渡されたが、本件各押収物については没収も被害者還付もなされないまま判決が確定した。申立人が検察官に対し本件各押収物の還付を請求したところ、検察官がこれを拒絶したため、申立人が準抗告を申し立てた。 【争点】 被告事件終結後、没収・被害者還付の言渡しがなされなかった押収物について、不正の手段によりこれを取得した被押収者(所有者)に対し還付を拒絶することが許されるか。 【判旨】 裁判所は、本件準抗告を棄却した。 まず、刑訴法123条1項により、被告事件終了時に没収等の言渡しがない押収物は原則として被押収者に還付すべきであるが、被押収者Bが還付請求権を放棄しているため、所有者である申立人が次順位の還付先となるとした。 その上で、本件各押収物は申立人が偽造文書を自ら行使して直接取得したものであること、また平成19年の戸籍法及び住民基本台帳法の改正により第三者による戸籍等の交付請求が制限され、不正取得が刑事罰の対象とされたことを指摘し、申立人に還付することはこれら法律の趣旨を没却するものであり許されないと判断した。法禁物であっても還付した上で直ちに所持罪で逮捕すればよいとの見解に対しては、そのような運用自体が相当とはいい難く、所持罪が定められていない物であっても還付により法の趣旨が没却される場合は還付を認めるべきではないとした。 さらに、仮に申立人に還付請求権が認められるとしても、不正取得した本人がその還付を受けることは違法行為の結果を保持しようとするものであり、法秩序維持の観点から権利の濫用に該当するとした。申立人がAに対する執着心ないし復讐心を抱いていることが認められ、還付請求がこれらを果たす手段として用いられていると推認されることも指摘し、還付を受けるべき正当な事由はないと結論づけた。