名称使用差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 長唄囃子の流派「望月流」の宗家家元であり、十二代目望月太左衛門の芸名を有する原告が、被告ら6名に対し、長唄囃子における芸名として「望月」の名称を使用することの差止めを求めた事案である。望月流は、初代太左衛門が安永2年(1773年)頃までに創流した長唄囃子の伝統的流派であり、代々太左衛門が家元として門弟に「望月」姓を冠した名取名を認許してきた。被告らは、四世望月左吉から名取名の認許を受けた者であり、原告からは名取名を認許されていなかった。被告らは、望月流には原告の「浪花町派」のほか「森下派」「田圃派」等の複数の独立した流派があり、「望月」は望月流一門全体の営業表示であって原告個人の営業表示ではないと反論した。 【争点】 「望月」の表示が、被告らにとって他人(原告)の周知な営業表示に該当するか否か。具体的には、望月流において太左衛門のみが一門全体を代表する唯一の家元であり「望月」が原告の営業表示といえるのか、それとも「森下派」「田圃派」等が独立した流派として存在し「望月」は一門全体の共有的な営業表示にすぎないのかが争われた。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を全部認容し、被告らに対して「望月」の名称の使用差止めを命じた。まず、原告を含む歴代太左衛門が行う長唄囃子の演奏・指導・名取名認許等の事業活動は、出演料・名取料等の対価を収受していることから、不正競争防止法2条1項1号の「営業」に該当すると判断した。次に、昭和41年発行の名鑑で太左衛門が望月流一門全体を代表する家元として紹介されていること、十代目太左衛門が「森下派」に属する者についても名取名を認許していたこと、平成5年・6年の歌舞伎座での演奏会で松竹会長ら多数の関係者が太左衛門を望月流の家元と紹介していること、長唄協会も原告を望月流の代表者として扱っていること等から、遅くとも平成6年6月までに太左衛門が望月流一門全体の家元として需要者間で広く認識されるに至ったと認定した。被告らが主張する「森下派」等の独立性については、少なくとも昭和48年以降、太左衛門の活動から独立した流派としての活動をしていたとは認められないとし、「望月」の表示は原告の営業表示に該当すると結論づけた。そして、被告らが原告の営業表示と同一の「望月」を使用して活動することは需要者に混同を生じさせる不正競争に当たるとして、差止請求を認容した。