AI概要
【事案の概要】 被告人は、塗料の製造・販売等を目的とするA社の子会社B社に在籍中、A社が保有する塗料の配合情報(原料及び配合量)にアクセスする権限を付与されていた。A社は、情報管理システム「I」によって配合情報を厳格に管理しており、アクセス権の付与には上司・部門長・情報システム部の承認が必要で、ログイン時には営業秘密である旨の警告文が表示される仕組みであった。被告人は、B社の社長から退職を促された後、競合他社であるD社をベースにA社に対抗する事業を計画し、平成25年1月頃、A社の塗料2製品の配合情報を自己所有のUSBメモリに保存して領得した。その後、D社に入社・取締役に就任し、同年4月頃及び同年8月に、領得した配合情報を基に作成した書面や電子メールをD社従業員に開示した。D社は、開示された情報を用いて競合塗料を開発・製造・販売した。 【争点】 本件では4つの争点が争われた。第1に、被告人が領得・開示した情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するか。第2に、被告人の行為が営業秘密の「領得」に当たるか。第3に、被告人の行為が任務違背に当たるか。第4に、被告人に「不正の利益を得る目的」があったかである。弁護人は、子会社B社における情報管理が不十分であったこと、リバースエンジニアリングや特許公報により配合情報を特定可能であること、被告人が開示した推奨配合表は元の商品設計書とは異なる情報であること等を主張して、いずれの要件も満たさないと争った。 【判旨(量刑)】 裁判所は、全争点について検察官の主張を概ね認めた。営業秘密該当性については、Iシステムによるアクセス制限、警告文の表示、商品設計書への「営業秘密」「㊙」の表示等から秘密管理性を認め、リバースエンジニアリングには相当高額の費用と期間を要し特許公報との併用でも容易に特定できないとして非公知性を認め、研究開発の成果として有用性も認めた。領得については、USBメモリ内のファイルのタイムスタンプ(作成日時・更新日時・アクセス日時)を詳細に分析し、平成25年1月頃にB社内で複製が作成されたと認定した。任務違背については、Iへのアクセス権付与時の同意により営業秘密保持特約が成立し、個人所有のUSBへの保存は情報管理規定に違反すると判断した。不正目的については、退職前から競合他社での事業計画を立てていた経緯等から認定した。以上により被告人を懲役2年6月及び罰金120万円に処し、懲役刑につき3年間の執行猶予を付した(求刑:懲役4年及び罰金200万円)。