賃金請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30受908
- 事件名
- 賃金請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2020年3月30日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄差戻
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 タクシー会社(被上告人)に雇用されたタクシー乗務員(上告人ら)が、歩合給の計算に当たり、売上高(揚高)の一定割合に相当する金額(対象額A)から残業手当等の割増金を控除する旨を定めた賃金規則が無効であるとして、未払賃金の支払を求めた事案である。同賃金規則の下では、揚高が同じであれば、時間外労働等の有無やその時間数にかかわらず総賃金額は原則として同額となる仕組みとなっていた。第1審は当該定めを公序良俗に反し無効として請求を一部認容し、第1次控訴審もこれを支持したが、第1次上告審(最高裁平成29年2月28日判決)は、割増賃金に関する法令解釈の誤りを指摘して差し戻した。差戻し後の第2次控訴審(原審)は、本件賃金規則上の各賃金項目について通常の労働時間の賃金と割増賃金の判別が可能であり、未払賃金は認められないとして請求を棄却した。 【争点】 本件賃金規則における割増金(深夜手当・残業手当・公出手当)の支払が、労働基準法37条の定める割増賃金の支払といえるか。具体的には、対象額Aから割増金を控除して歩合給を算定する仕組みの下で、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるかが問題となった。 【判旨】 最高裁は原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。まず、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払義務を課すことで時間外労働等を抑制し、労働者への補償を行うことにあるとした上で、割増賃金の支払の有無を判断するには、賃金の定めにつき通常の労働時間の賃金と割増賃金の判別が可能であることが必要であるとの従来の判例法理を確認した。そして、特定の手当が時間外労働等に対する対価として支払われるか否かは、契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり、手当の名称や算定方法だけでなく、賃金体系全体における位置付け等にも留意すべきであると判示した。 本件賃金規則の仕組みでは、時間外労働等をした場合に割増金が発生する一方、同額が対象額Aから控除されて歩合給が減額されるため、揚高から生ずる割増賃金の全額をタクシー乗務員に負担させているに等しく、同条の趣旨に沿うものとはいい難いとした。さらに、割増金の額が大きくなり歩合給が0円となる場合には、出来高払制の賃金部分の全てが割増賃金であることとなり、法定労働時間を超えた労働に対する割増分として支払われるという割増賃金の本質から逸脱するとした。結局、本件の割増金は、実質的には歩合給として支払われるべき部分を相当程度含んでおり、どの部分が時間外労働等に対する対価かは明らかでないから、通常の労働時間の賃金と割増賃金を判別することはできず、割増金の支払により割増賃金が支払われたとはいえないと結論付けた。裁判官全員一致の意見である。