AI概要
【事案の概要】 乳幼児期に国が実施した集団予防接種等において注射器の連続使用によりB型肝炎ウイルス(HBV)に持続感染した原告ら2名が、成人後にB型慢性肝炎(HBe抗原陽性慢性肝炎)を発症し、一旦沈静化した後にHBe抗原陰性慢性肝炎を再発したとして、再発後の損害は従前の慢性肝炎発症による損害とは別個の損害であると主張し、国家賠償法1条1項に基づき、各1300万円(弁護士費用50万円を含む)の損害賠償を求めた事案である。被告(国)は、集団予防接種等によるHBV感染の可能性は認めつつも、損害賠償請求権は民法724条後段の除斥期間(20年)の経過により消滅したと主張した。 【争点】 主たる争点は、除斥期間の起算点である。具体的には、HBe抗原セロコンバージョン後に再発したHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が、最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは「質的に異なる別個の損害」といえるか、すなわち除斥期間の起算点を最初の慢性肝炎発症時とすべきか、再発後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時とすべきかが争われた。原告らは、HBe抗原陰性慢性肝炎は典型的な自然経過における例外的症例であり、病状がより重篤で予後も不良であるから別個の損害であると主張した。被告は、両者はいずれも「慢性肝炎」という同一の病態であり、質的に異なる損害とはいえないと主張した。 【判旨】 裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。まず、HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎はいずれも「慢性肝炎」という同一の病態に属するから、原則として最初の慢性肝炎発症時に再発による損害も含めた一個の損害として発生していたとした。その上で、原告らが主張するHBe抗原陰性慢性肝炎の特徴(線維化の進展、変異株による惹起、予後不良)について検討し、HBe抗原陰性慢性肝炎が全ての症例でHBe抗原陽性慢性肝炎より重篤とはいえず、重篤傾向は患者の高齢化や既往の炎症活動の経過によるものである可能性が残ること、変異株の存在はHBe抗原陰性慢性肝炎に特有の現象ではないこと等を指摘し、両者の間に損害を別個と評価するに足りる差異は認められないと判断した。また、B型慢性肝炎の発症による損害には沈静化後の再発の可能性も含まれており、再発したことをもって別損害とはいえないとした。結論として、除斥期間の起算点は最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時(原告番号482につき昭和60年10月19日、原告番号641につき同年2月19日)であり、提訴時には既に20年が経過していたとして、原告らの損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅したと判断した。