AI概要
【事案の概要】 本件は,「樹脂組成物,及びこれを用いたポリイミド樹脂膜,ディスプレイ基板とその製造方法」に関する特許(特許第6172139号)について,特許庁が進歩性欠如を理由に請求項1〜4及び6〜19に係る特許を取り消す旨の異議決定をしたことに対し,特許権者である原告(日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社)がその取消しを求めた訴訟である。本件特許は,ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)に特定のアルコキシシラン化合物を少量配合することで,支持体との十分な密着性と良好な剥離性を両立し,かつ機械特性及び耐熱性に優れたポリイミド樹脂膜を形成可能な樹脂組成物を提供するものである。特許庁は,全ての請求項について引用文献(甲1:特開2010-202729号)に基づく進歩性欠如を認定していた。 【争点】 主な争点は,(1) 本件発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定の当否(ポリアミド酸の構造の相違の有無),(2) 相違点1(アルコキシシラン化合物の含有及びその含有量)に係る容易想到性の判断の当否,(3) 相違点2(基板の種類及び膜厚)に係る容易想到性の判断の当否,(4) 本件発明2に特有の相違点3(特定の4種のアルコキシシラン化合物の選択)に係る容易想到性の判断の当否,(5) 本件発明の効果の顕著性である。 【判旨】 知財高裁は,請求項2,9及び10に係る部分について異議決定を取り消し,その余の請求を棄却した。 まず一致点・相違点の認定について,裁判所は,甲1発明のポリイミド前駆体はテトラカルボン酸二無水物とジアミンの重合により得られるものであり,技術常識に照らせば4価の有機基に2個のカルボキシル基が結合した構造を有すると理解されること,甲1の実施例がいずれも芳香族環を有する構造単位を含むことから,ポリアミド酸の構造に実質的相違はないと認定し,本件決定の一致点・相違点の認定に誤りはないとした。 相違点1(アルコキシシラン化合物の添加及び含有量0.2〜2質量%)については,甲1の段落【0019】にシランカップリング剤の添加が記載され,その好適使用量(0.1〜3質量%)の範囲内で密着性と剥離性の両立を図ることは当業者が容易になし得たと判断した。原告が主張する「添加剤がポリイミドの熱的・機械的特性を低下させるとの技術常識」については,原告提出の甲30は特定のビスイミド化合物に関するものにすぎず,添加剤一般についてポリイミドの特性を低下させるとの技術常識は認められないとした。 しかし,相違点3(本件発明2に特有の4種のアルコキシシラン化合物の選択)については,甲1にこれらの化合物は記載されておらず,甲22(シランカップリング剤の便覧)にもポリイミドへの添加についての記載がないこと,甲2〜6はいずれもアルコキシシラン化合物を本件発明2とは異なる目的で配合するものであることから,当業者がこれらの化合物を選択する動機付けがあるとは認められないとして,本件発明2は容易想到でないと判断した。 この結果,本件発明2を引用する本件発明9及び10も容易想到でないとされ,請求項2,9及び10に係る部分の異議決定が取り消された。