AI概要
【事案の概要】 長崎原爆投下時に爆心地から約3.6kmの地点で被爆した原告(当時4歳10か月)が、平成27年に再発した乳がんを申請疾病として原爆症認定を申請したところ、厚生労働大臣から却下処分を受けたため、(1)却下処分の取消しと、(2)国家賠償法1条1項に基づく慰謝料100万円の支払を求めた事案である。原告は被爆当日に叔母方の屋外で爆風を受けて額を負傷し、翌日以降も叔母方に滞在した。さらに8月12日から約1か月間、爆心地から約2km以内で被爆し全身に火傷を負った伯父の看病を母と共に行い、つわの葉で伯父の火傷箇所を手当する手伝いをしていた。原告はその後、貧血症や甲状腺機能低下症を発症し、平成24年に右乳がんと診断されて手術を受け、平成27年に再発した。 【争点】 (1) 放射線起因性の判断基準、(2) 原告の原爆症認定要件該当性(放射線起因性及び要医療性)、(3) 国家賠償責任の成否。被告(国)は、DS02に基づく原告の初期放射線の推定被曝線量が約0.9ミリグレイとごく僅かであり、内部被曝や伯父の看病による被曝線量も僅少であるとして、乳がんの放射線起因性を争った。 【判旨】 裁判所は、放射線起因性の判断に当たっては、申請者の被曝の程度と疾病との関連性を中心に、具体的症状や他の危険因子等を総合的に考慮して高度の蓋然性を判断すべきとした。被曝線量の評価について、DS02は相当の科学的合理性を有するが、遠距離の被曝線量を過小評価している可能性があること、誘導放射線や放射性降下物による被曝線量も過小評価の疑いがあること、内部被曝を無視し得るとすることにも疑問が残ることを指摘し、DS02による線量は一応の目安にとどめるべきとした。その上で、原告は(1)爆心地から約3.6kmの屋外で被爆し爆風で飛散した放射性粉じんを傷口や呼吸から取り込んだ可能性、(2)叔母方滞在中の内部被曝の可能性、(3)誘導放射化した伯父の体に触れるなどして被曝した可能性があり、放射線との関連性を否定し得ない貧血症や甲状腺機能低下症にも罹患していることがこれを裏付けるとして、相当程度具体的な被曝の可能性を認めた。乳がんは疫学的知見上、放射線被曝との関連性が高く、若年被爆者ほどリスクが増大するところ、加齢以外に程度の高い危険因子も認められないことから、放射線起因性を肯定し、却下処分を取り消した。他方、国家賠償請求については、厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見に従って処分したことにつき、職務上の注意義務違反は認められないとして棄却した。