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【事案の概要】 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)に基づく被爆者である原告(昭和15年生まれの女性)は、平成27年に再発した乳がんを申請疾病として原爆症認定の申請をしたところ、厚生労働大臣から申請を却下する処分を受けた。原告は、長崎原爆投下時、爆心地から約3.6kmの叔母方の屋外で被爆し、額を負傷した。被爆翌日以降、叔母方に数日間滞在し、さらに爆心地から約2km以内の工場で被爆して全身に火傷を負った伯父の看病を約1か月間にわたり手伝った。原告は、①本件却下処分の取消しと、②国家賠償法1条1項に基づく慰謝料100万円の支払を求めて提訴した。 【争点】 (1) 放射線起因性の判断基準:被曝線量の評価方法(DS02の信頼性、残留放射線・放射性降下物による被曝線量の評価、内部被曝の影響等)の合理性 (2) 原告の原爆症認定要件該当性:原告の乳がんについて放射線起因性及び要医療性が認められるか (3) 国家賠償責任の成否:厚生労働大臣が却下処分をしたことに国賠法上の違法があるか 【判旨】 請求一部認容(却下処分取消しを認容、国家賠償請求を棄却)。裁判所は、放射線起因性の判断基準について、DS02による被曝線量の推定には相当の科学的合理性があるとしつつも、爆心地から1500m以遠での過小評価の可能性、誘導放射線及び放射性降下物による内部被曝の影響が考慮されていない点を指摘し、DS02の算定値は飽くまで一応の目安にとどめるべきとした。原告の放射線被曝の程度については、DS02に基づく初期放射線の推定被曝線量は約0.9ミリグレイと僅かであるが、爆風により飛散した誘導放射化物質を含む粉じんを傷口や呼吸から体内に取り込んだ可能性、叔母方滞在中の外部・内部被曝の可能性、全身に火傷を負った伯父の看病による被曝の可能性があり、さらに放射線被曝との関連性を否定し得ない貧血症や関連性を有する甲状腺機能低下症に罹患していることがこれを裏付けるとした。乳がんと放射線被曝との一般的関連性も肯定した上で、加齢以外に程度の高い危険因子がないことも考慮し、放射線起因性及び要医療性を認めて却下処分を取り消した。他方、国家賠償請求については、厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見に従って処分をした経緯に照らし、職務上通常尽くすべき注意義務に違反したとは認められないとして棄却した。