私電磁的記録不正作出・同供用
判決データ
AI概要
【事案の概要】 暗号資産(仮想通貨)ビットコインの取引所を運営していた会社(M社)の代表取締役であった被告人が、M社の事務処理を誤らせる目的で、平成25年2月から同年9月までの間、21回にわたり、サーバコンピュータ内のビットコイン取引システムに接続し、自己のアカウント(A口座)の米ドル口座残高が増加した旨の虚偽情報を作出・記録保存させ、同社の事務処理の用に供したとして、私電磁的記録不正作出・同供用の罪に問われた事案の控訴審である。被告人はM社の唯一の取締役であり、過去にシステム不具合で失われた約1万7000BTCの補填や、フランスの銀行口座凍結によるキャッシュフロー危機への対処として、ブロックチェーン上に裏付けのない30万BTCの残高を作出し(30万BTC増加行為)、さらにこれを隠蔽するため本件各行為(合計約3350万米ドルの残高増加)を行っていた。原審では業務上横領については無罪とされたが、私電磁的記録不正作出・同供用については有罪とされ、被告人側が控訴した。 【争点】 被告人が入金なく口座残高を増加させた行為が、電磁的記録を「不正に」作出したといえるかが争われた。弁護側は、被告人がM社の唯一の包括的業務執行権限を有する取締役であり、会社の意思は会社機関である被告人の意思と完全に一致するから、被告人の行為がM社の意思に反することは論理的にあり得ず、また作成された電磁的記録の内容は虚偽ではないと主張した。検察側は、被告人がM社の意思に反し、権限の範囲内では作ることが許されない電磁的記録を作出したと主張した。 【判旨(量刑)】 控訴棄却。東京高裁は、原判決の認定・判断をいずれも是認した。M社は自ら作成した利用規約において、売主は売却するビットコインが実際のビットコインに対応することを保証する旨等を定め、利用者に対して取引システムを提供していたことから、M社の意思は、取引システム上の口座残高に相当するビットコインがブロックチェーン上にも存在すべきであり、ブロックチェーン上の裏付けがある場合に限って口座残高を増加させるべきであるというものと認定した。会社と会社機関である自然人とは別個の法人格であり、それぞれの意思を個別に観念できることは当然であるとし、利用規約という形で表明されたM社の意思と被告人個人の内心の意思は当然には合致しないとした。30万BTC増加行為はM社の意思に反する虚偽の電磁的記録の作出であり、本件各行為はこれを隠蔽する目的でなされた権限濫用行為であると判断し、弁護側の主張をいずれも退けた。