AI概要
【事案の概要】 本件は、アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物に関する特許(特許第3068858号)について、原告が特許無効審判を請求したところ、特許庁が審判請求不成立の審決をしたため、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許は被告ら(協和キリン株式会社ほか)が特許権者であり、本件化合物(オロパタジン)をヒト結膜肥満細胞安定化剤として用いる発明に係るものである。本件は、第1次審決から最高裁判所の上告審判断を経て知的財産高等裁判所に差し戻された後の判決であり、差戻前判決が本件各発明の効果の顕著性を否定した点に法令の解釈適用を誤った違法があるとして破棄差戻しがされたものである。原告は、甲1(モルモット実験結果)を主引例とする新規性欠如・進歩性欠如、甲3(三環式芳香族化合物に関する公報)を主引例とする進歩性欠如を無効理由として主張した。 【争点】 主な争点は、本件訂正後の請求項1及び5に係る各発明の進歩性(顕著な効果の有無)である。具体的には、(1)甲1発明(モルモット実験)及び甲4発明(ラット皮膚肥満細胞実験)から本件各発明の構成に至る動機付けがある場合に、本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果が当業者の予測できない顕著なものといえるか、(2)甲3発明(上位概念の三環式化合物)に基づく進歩性欠如が認められるか、が争われた。特に、本件優先日後の文献(甲39)の実験結果を発明の効果の顕著性判断に参酌できるかも論点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却し、審決を維持した。裁判所は、まず本件発明1の効果として、本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率が30μMから2000μMの濃度範囲で濃度依存的に上昇し、最大値92.6%に達すること、この間に阻害率が低下する現象が生じていないことを認定した。その上で、(1)甲1にはKW-4679がモルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しないと記載されているにもかかわらず、本件化合物がヒト結膜肥満細胞に対して非常に高い阻害率を示すことは当業者が予測し得ない格別顕著な効果であること、(2)ケトチフェンと本件化合物は環構造や置換基が異なるため、ケトチフェンの効果から本件化合物の効果を予測できたとはいえないこと、(3)甲39は本件優先日後の文献であり、その記載を参酌してケトチフェンの効果を認定することはできないこと等を判示した。甲3を主引例とする進歩性欠如についても、甲3には本件化合物が明記されておらず、上位概念の化合物から本件化合物を選択してヒト結膜肥満細胞安定化剤として用いることの動機付けは認められないとした。以上により、本件各発明の効果は当業者が予測できた範囲を超える顕著なものであり、進歩性が認められると結論付けた。