AI概要
【事案の概要】 民間企業(鋼線・鋼索の製造販売業)の常務取締役である被告人Aと営業部長である被告人Bが、国立大学法人大阪大学の教授Cに対し、同企業と大阪大学との共同研究の受入れ・実施等に関して賄賂を供与したとして贈賄罪で起訴された事案の控訴審である。被告人らの会社は、主力製品であるフープ筋(高強度せん断補強筋)について競合他社に対抗するため、独自の損傷制御式を構築して第三者機関の評定を取得する必要があり、耐震工法の専門家であるCに技術指導を依頼した。技術指導契約に基づき、月額10万円を基礎に算定した技術指導料合計194万4000円を3回にわたりCが管理する会社の口座に振り込んだ。これと並行して、大阪大学との共同研究として部材実験も実施されていた。原審はほぼ公訴事実どおりの事実を認定し、被告人Aを懲役10月・執行猶予3年、被告人Bを懲役8月・執行猶予3年に処した。なお、Cは共同研究の受入れに関する正規の手続を大学に対して行わず、委託研究費を個人的に受領するなどの不正を行っていたが、被告人らはこの不正を知らなかった。 【争点】 主な争点は、①Cの共同研究受入れに関する職務権限の有無、②正規の受入れ手続を経ていない本件共同研究の職務行為性、③技術指導料の賄賂性及びその認識、④被告人Bの共謀の有無である。特に中心的争点は③の賄賂性であり、弁護側は、技術指導契約は丙式(競合他社の損傷制御式)の解明や独自式の構築等の高度に専門的な作業についてCの知識を頼りに依頼したものであり、技術指導料はその正当な報酬であって、共同研究の受入れ・実施に対する謝礼ではないと主張した。 【判旨(量刑)】 原判決を破棄し、被告人両名に無罪を言い渡した。当裁判所は、職務権限及び職務行為性の点は結論として原判決の認定に誤りがあるとはいえないとしつつも、賄賂性の認定について原判決には事実誤認があると判断した。その理由として、まず、大学教授のような研究職公務員の職務は調査研究という一般の公務員と異なる性質を有し、産学連携の政策理念のもと、民間企業の研究開発・技術指導に専門知識を振り向けることは広く容認されていることを指摘した。そして、実体のある職務外活動に関し適法な趣旨で供与された金員について賄賂と認定するには、単に職務との対価性があるというだけでは足りず、報酬の不正さを基礎付ける事情が対価性とは別に認められることが必要であるとの判断枠組みを示した。本件では、①甲に有利な虚偽の実験結果を出すなどの不正な目的は一切なく、②技術指導料の金額は前任の私立大学教授への支払額と同額で適正な範囲内であり、③Cの大学に対する不正を被告人らが知っていたことを示す証拠も存在しないことから、不正な報酬であることを基礎付ける事情は認められないとした。本件は産学連携として至極通常のあり様であり、Cの不正を知らなかった被告人らは犯牲者というべきで、賄賂を贈ったと評価される謂れはないと結論づけた。