AI概要
【事案の概要】 乳幼児期に集団予防接種等を受けてB型肝炎ウイルスに持続感染し、慢性B型肝炎を発症した原告ら5名が、予防接種の際に注射器が連続使用されたことが感染原因であるとして、国家賠償法1条1項に基づき、慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続又は鎮静化後の再発に係る損害として、各1300万円(包括一律請求としての損害額1250万円及び弁護士費用50万円)の支払を求めた事案である。被告(国)は、B型肝炎ウイルス持続感染と予防接種等との因果関係を争うとともに、慢性肝炎の長期持続又は再発に係る損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅したと主張した。 【争点】 (1) B型肝炎ウイルス持続感染と予防接種等との因果関係の有無、(2) 慢性肝炎の病状等に関する医学的知見及び原告らの具体的な病状、(3) 除斥期間の起算点(慢性肝炎の長期持続又は再発に係る損害は、最初の慢性肝炎発症に係る損害と「質的に異なる損害」か)、(4) 原告らの損害の程度。 【判旨】 裁判所は、争点(1)につき、原告らはいずれも水平感染によりB型肝炎ウイルスに持続感染したものと認められ、予防接種等のほかに感染原因となる可能性の高い具体的事実は認められないとして、予防接種等と持続感染との因果関係を肯定した。 争点(2)につき、医学的には、慢性肝炎の長期持続及び再発は、いずれも最初に発症した慢性肝炎の経過の一部であり、HBe抗原の有無や持続期間に応じた特段の取扱いもなされていないとして、これらが最初の慢性肝炎とは医学的に異なる病状であるとはいえないと判断した。 争点(3)が本件の核心的争点であるところ、裁判所は、じん肺訴訟に関する最高裁平成6年判決の枠組みに従い、質的に異なる損害か否かは、医学的見地のみならず社会的事実も考慮すべきであるとした上で、次の理由から、慢性肝炎の長期持続又は再発は最初の発症とは質的に異なる損害とはいえないとした。すなわち、(a) 医学的には慢性肝炎の長期持続又は再発は一連の病態の一部であること、(b) 基本合意において慢性肝炎は肝硬変と区別される一方、慢性肝炎の長期持続や再発については格別の区別がされておらず、発症から肝硬変に至るまでの段階が一体として扱われていたこと、(c) 障害等級認定においても長期持続や再発後に障害等級は変わらないこと、(d) B型肝炎はじん肺と異なり不可逆的疾患ではなく、線維化の改善も可能であること等である。さらに、原告ら個別の臨床経過を検討しても、各原告の慢性肝炎の再発又は長期持続は、いずれも当初発症した慢性肝炎という一個の病状の中で予見される経過として生じたものであるとした。 以上から、原告らの損害賠償請求権はいずれも除斥期間(20年)が経過しているとして、請求をすべて棄却した。なお、裁判所は、原告らが慢性肝炎と闘いながら損害賠償を求めることには困難な面があったと推察されるとしつつも、そのような事情をもってしても法的安定性を求める法の建前を崩すまでの事情とは認められないと判示した。