生活保護基準引下げ処分取消等請求事件(第1事件,第2事件)
判決データ
AI概要
【事案の概要】 生活保護法に基づく生活扶助を受給している原告ら(名古屋市・豊橋市・刈谷市に居住する21名)が、厚生労働大臣による2013年(平成25年)及び2014年(平成26年)の生活扶助基準の引下げ改定に基づく各保護変更決定処分の取消しと、国家賠償法に基づく損害賠償(各1万円)を求めた事案である。厚生労働大臣は、社会保障審議会生活保護基準部会の検証結果を踏まえ、生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を是正する「ゆがみ調整」と、平成20年から平成23年までの物価下落(4.78%)を生活扶助基準に反映させる「デフレ調整」の二つの調整を、3年間で段階的に実施した。これにより生活扶助費は約670億円削減された。原告らは、この引下げが憲法25条の生存権を具体化した生活保護法3条・8条に違反し、健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったと主張した。いわゆる「生活保護基準引下げ違憲訴訟」の一つである。 【争点】 主な争点は、(1)ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定が生活保護法3条・8条に違反するか、(2)処分通知書の理由付記が行政手続法14条等に違反するか、(3)国家賠償法上の違法性の有無である。争点(1)に関し、原告らは、制度後退禁止原則による厚生労働大臣の裁量制約、比較対象を第I-10分位の世帯としたことの不合理性、デフレ調整における「生活扶助相当CPI」の算出方法(ウェイト参照時点・指数品目選定・一般世帯の支出割合使用等)の統計学的な問題点、専門家の検証を経ていないこと、政治的意図に基づく改定であることなど多岐にわたる違法事由を主張した。 【判旨】 裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。まず判断枠組みとして、生活扶助基準の改定については厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められ、統計等の客観的数値との合理的関連性や専門的知見との整合性などから判断過程及び手続の過誤・欠落の有無を審査すべきとした。制度後退禁止原則については、最低限度の生活の具体的内容は社会経済情勢の変化により変動し得るものであり、社会権規約や一般的意見によっても裁量権は制約されないとして排斥した。ゆがみ調整については、基準部会が第I-10分位の世帯を比較対象としたことは統計的根拠に基づく合理的判断であり、生活保護受給世帯を除外しなかった点も検証目的に照らし不合理とはいえないとした。デフレ調整については、専門家の検討を経ることは法令上義務付けられておらず、物価下落率算出の期間設定(平成20年〜23年)、指数・価格参照時点の設定(平成22年)、ウェイト参照時点の設定、指数品目の選定等について、いずれも裁量権の逸脱・濫用はないとした。政治的意図の点についても、改定には実施する必要性が存在しており、自民党の政策の影響を受けたとしても違法とはいえないとした。理由付記についても、通知書の記載で処分内容・根拠を了知し得るとして適法とした。