AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和元年6月中旬頃から同月25日までの間に、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類を自己の身体に摂取し、覚せい剤を使用したとして起訴された事案である。被告人は覚せい剤自己使用の罪による一部執行猶予期間中であった。令和元年6月25日午後7時26分頃、警ら中の警察官らが被告人の顔形等に覚せい剤使用者の兆候を認め、ガソリンスタンドで職務質問を開始した。被告人はパトカーへの乗車や所持品検査には応じたが、任意同行と任意採尿を拒否し、帰宅を求めた。しかし警察官らはチャイルドロックがかかったパトカー内に被告人を留め置き、約9時間後の翌日午前5時頃に強制採尿令状が執行され、被告人の尿から覚せい剤の陽性反応が出た。 【争点】 弁護側は2つの争点を主張した。第一に、約9時間に及ぶ留め置きが任意捜査の限度を超えた違法なものであり、それにより得られた尿及び鑑定書等が違法収集証拠として証拠能力を欠くこと。第二に、被告人が知人に連れられたマンションの一室で、見知らぬ男性4人が覚せい剤をガラスパイプであぶって吸引していた副流煙を約3時間吸引したに過ぎず、それが覚せい剤であると認識していなかったとして、自己使用の故意を欠くことである。 【判旨(量刑)】 裁判所は、留め置きの適法性について、検察側が依拠する「二分論」(強制採尿令状請求の着手前後で留め置きの許容範囲を区別する見解)を正面から批判した。二分論は刑訴法上の根拠がない捜査機関の一方的行為をもって実質的身体拘束を広く認めるもので、強制処分法定主義及び令状主義の観点から採用できないとした。その上で、被告人が加西警察署で妻子と合流し帰宅の意思を示した段階以降の留め置きは任意捜査の限界を超えた違法なものと認定した。もっとも、警察官が職務質問開始から約1時間30分で令状請求に着手していたこと、有形力の行使がなかったこと、令状主義を潜脱する意図までは認められないこと等から、令状主義の精神を没却する重大な違法とまではいえず、証拠能力は否定されないと判断した。 故意の争点については、裁判所は薬物動態学の先行研究に基づき、独自に詳細な科学的検討を行った。副流煙の吸引による尿中覚せい剤濃度を被告人に最大限有利な条件で試算しても、実際に検出された濃度(約60マイクログラム/ml)は副流煙吸引で説明可能な濃度の数百倍から数万倍に達し、被告人の弁解は客観的分析結果と矛盾すると結論づけた。また、覚せい剤あぶり使用の前科がある被告人が、他人の覚せい剤使用を認識しながらその場に留まり続けたこと自体が自己使用の故意を基礎づけるとした。 以上により被告人を有罪と認め、懲役2年(求刑懲役2年6月)を言い渡した。なお裁判所は付言として、留め置き中の被告人の言動を録音録画や防犯カメラ映像で保全しなかった捜査機関の対応や、覚せい剤鑑定において定量分析を行わない運用の問題点を指摘した。