AI概要
【事案の概要】 本件は、船舶の浸水防止構造に関する特許(特許第5894240号、発明の名称「船舶」)について、原告(内海造船株式会社)が、被告(三菱造船株式会社)の保有する本件特許に対して請求した無効審判(無効2017-800109号)の審決取消訴訟である。 本件特許の発明は、旅客船やフェリー等の船舶において、船体内部の隔壁で区画された複数の部屋の側壁と隔壁の連結部に「浸水防止部屋」を設けることで、船側損傷時に浸水区画が過大となることを防止し、設計の自由度を拡大するというものである。原告は、特許庁の無効不成立審決に対し、本件補正及び訂正における新規事項追加の有無、先行技術(欧州RoPax船モデルの損傷時復原性試験報告書等)に基づく新規性・進歩性欠如など7つの取消事由を主張した。 【争点】 主な争点は、(1)訂正事項A(浸水防止部屋が部屋の高さ方向にわたって形成されるとの限定)及び訂正事項C(縦通隔壁で区画されていないとの限定)が新規事項の追加に当たるか、(2)補正事項a(浸水防止部屋が空間であり側壁損傷時に浸水すること)及び補正事項b(機関区域の部屋が縦通隔壁で区画されていないこと)が新規事項の追加に当たるか、(3)先行技術文献との相違点の認定の当否、(4)相違点に係る容易想到性の判断の当否、(5)先行技術文献に記載されたタンク(アンチローリングタンク等)が本件特許の「浸水防止部屋」に該当するかである。 【判旨】 知財高裁は、取消事由1から6についてはいずれも理由がないと判断した。訂正事項Aについては、明細書の記載から浸水防止部屋が部屋の高さ方向にわたって形成されることは明示的に記載されていると認定した。訂正事項Cの「縦通隔壁で区画されていない」については、本件発明の目的や図面の記載を総合すれば、新たな技術的事項を導入するものではないとした。先行技術(甲3発明)との相違点の認定及び容易想到性についても審決の判断に誤りはないとした。 他方、取消事由7については理由があると判断した。「浸水防止部屋」の意義について、審決は「専ら浸水防止を企図した空間」と限定解釈し、先行技術のタンク(甲4文献のアンチローリングタンク、甲6文献の船尾トリミングタンク)は該当しないとしたが、裁判所は、「浸水防止部屋」とは側壁が損傷し浸水してもそれが設けられた部屋に浸水しないような水密構造の部屋を意味し、タンク等の他の機能を兼ねることは排除されないと解釈した。公知文献にも浸水防止区画を小槽(タンク)として利用できる旨の記載があり、他の機能を兼ねることを許容する方が設計の自由度拡大という発明目的に資するとした。 以上から、請求項1、2、5から12に係る審決部分を取り消し、請求項3、4に係る部分については原告の請求を棄却した。