AI概要
【事案の概要】 本件は、抗がん剤ボルテゾミブに関する医薬品特許(「ボロン酸化合物製剤」、特許第4162491号)の無効審判審決に対する取消訴訟である。特許権者はアメリカ合衆国(A事件原告)、無効審判請求人はホスピーラ・インコーポレイテッド(B事件原告)である。ボルテゾミブは強力なプロテアソーム阻害剤として有望な抗がん剤であるが、液体製剤では化学的に不安定であるという課題があった。本件特許は、ボルテゾミブとD-マンニトールとのエステル化合物(BME)を凍結乾燥粉末の形態で提供することにより、保存安定性・溶解性・再構成性を向上させるという発明に係るものである。特許庁の審決は、物の発明(本件化合物発明、請求項17等)についてはサポート要件違反で特許無効、方法の発明(本件製法発明、請求項21等)については進歩性欠如の主張を排斥して特許を維持する、との判断を示した。これに対し、特許権者は化合物発明の無効判断の取消しを求め(A事件)、請求人ホスピーラは製法発明の維持判断の取消しを求めて(B事件)、それぞれ訴えを提起した。 【争点】 1. 本件化合物発明がサポート要件を充足するか(特許権者取消事由) 2. 本件製法発明がサポート要件を充足するか(請求人ホスピーラ取消事由1) 3. 本件製法発明が甲1発明(ボルテゾミブの分解経路に関する文献)等に基づき進歩性を欠くか(同取消事由2・3) 4. 本件製法発明が甲6発明(ボルテゾミブのボロネートエステルに関する公報)等に基づき進歩性を欠くか(同取消事由4) 【判旨】 裁判所は、A事件原告(特許権者)の請求を認容し、B事件原告(ホスピーラ)の請求を棄却した。 争点1について、裁判所はまず、サポート要件の判断基準として、明細書に接した当業者が特許請求された発明が記載されていると合理的に認識でき、技術常識も踏まえて課題が解決できるとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足り、厳密な科学的証明までは不要であるとの判断枠組みを示した。その上で、実施例1の調製条件下では相当量のBMEが生成すると理解し得ること、FAB質量分析によりBMEの形成を示す強いシグナルが確認されていること、BMEを含む製剤が約18か月にわたり安定であったこと、及びボロネートエステルの加水分解平衡の技術常識から、本件化合物発明はサポート要件を充足すると判断し、審決のサポート要件違反の判断は誤りであるとした。 争点2については、化合物発明がサポート要件を充足する以上、その調製方法をクレームした製法発明もサポート要件を充足するとした。 争点3・4については、凍結乾燥が安定性に有利な製剤方法であること及びマンニトールが充填剤として周知であることは認めつつも、凍結乾燥は化合物の構造を変えないことを意図して行うものであるとの技術常識に照らし、容易想到であるのは「凍結乾燥したボルテゾミブ」であって本件発明の「BME」とは別個の化合物であるとして、進歩性を肯定した。