AI概要
【事案の概要】 東証一部上場の住宅販売会社に勤務する韓国籍の原告が、被告会社及びその代表取締役会長である被告Aに対し、損害賠償として3300万円を請求した事案である。原告は、①被告Aが中国・韓国・北朝鮮の国家や国民を激しく非難・中傷する政治的見解が記載された資料を職場で大量に反覆継続して配布し(本件配布①)、その閲読を余儀なくされたこと、②被告Aが支持する教科書の採択を求めるため、都道府県の教育委員会が開催する教科書展示会への参加とアンケート提出を従業員に促したこと(本件勧奨)、③原告が上記①②を違法として本件訴えを提起したところ、原告の訴えを批判する従業員の感想文等が職場で配布され、報復的非難を受けたこと(本件配布②)により、人格権ないし人格的利益が侵害されたと主張した。被告会社は従業員約1000名を擁する住宅販売会社であり、いわゆる傾向企業ではなく、原告は2002年から期間雇用契約で設計部門に勤務していた。 【争点】 主な争点は、①本件配布①の違法性の有無、②本件勧奨の違法性の有無、③本件配布②の違法性の有無、④損害の有無及びその額であった。被告らは、本件配布①について、従業員教育の一環であり閲読は任意であったこと、本件勧奨について、参加は全くの任意であり不利益取扱いもなかったこと、本件配布②について、会社のイメージ低下に対応する正当な措置であったことなどを主張して争った。 【判旨】 裁判所は、本件配布①、本件勧奨及び本件配布②のいずれについても違法と認め、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円の連帯支払を命じた。本件配布①について、人種差別撤廃条約や差別的言動解消法に基づく請求は直接の根拠とならないとしつつ、労働者は就業場所において国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益を有するとし、被告会社が傾向企業でないにもかかわらず、特定の国に対する顕著な嫌悪感情に基づく文献を広い意味での思想教育とも評価できる程度に反覆継続して大量配布したことは、その態様・程度が社会的に許容できる限度を超え違法であると判断した。本件勧奨についても、業務と関連しない政治活動への参加を事実上強く促すものであり、不参加の申出を余儀なくされることで思想・信条の自由を害するものとして違法と認定した。本件配布②については、不法行為の救済を求めて提訴した原告に対する報復であり、裁判を受ける権利を抑圧し名誉感情を侵害するもので違法性は明らかであるとした。もっとも、被告らの行為が命令としての性質を有するものではなく、直接の差別的言動や人事上の不利益取扱いが生じていないことなどを考慮し、慰謝料を100万円と認定した。