建造物侵入,殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成27年2月頃から通院していた精神科病院でA医師が主治医となり、平成28年7月頃にAが開業した診療所に転院した。平成29年1月頃から被告人とAは男女関係を持つようになり、平成30年3月に被告人の母とAの話し合いにより関係が解消された。被告人は、医師と患者という立場での不安定な不倫関係の中でAに対するストレスを感じており、境界性パーソナリティ障害の影響もあって、平成29年4月頃からAが被告人の個人情報を友人等に漏らしているという妄想的な思い込みを抱くようになった。平成30年2月頃にはこの思い込みが妄想性障害といえる状態に至った。被告人は友人らに依頼してインターネット上にAや診療所を誹謗中傷する書き込みをさせたことから、Aが警察や弁護士に相談し、被告人は警察から連絡を受けるなどした。平成31年1月29日、Aが発信者情報開示請求を行いプロバイダから友人に照会書が届いたことを知り、Aに対する怒りを募らせた被告人は、同年2月8日、新品の牛刀(刃体約18.4cm)とペティナイフ(刃体約11.9cm)を購入した上で診療所に侵入し、診察室においてAの頭部付近に向けて牛刀を複数回振り下ろすなどしたが、Aに全治約1か月の頭部切創・左頸部切創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 【争点】 第一の争点は殺意の有無である。弁護人は、被告人の行動はAの嫌いな血を流させて謝罪させるためのもので、刃物は軽くあてる程度に手加減しており、傷害罪が成立するにとどまると主張した。第二の争点は責任能力である。弁護人は、犯行の直接の動機はAに個人情報を漏洩されたという妄想に基づくものであり、妄想性障害の強い影響により行動制御能力が著しく減退していたとして、心神耗弱を主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、殺意について、被告人が牛刀とペティナイフの2本の刃物を両手に持ちAの顔や頭部付近を集中的に狙って複数回切り付けた行為は、それ自体客観的に人を死に至らしめる危険性の高い行為であると認定した。首を直接狙ったかどうかは危険性の判断に関係なく、事前に殺傷能力の高い凶器を2本購入していることも併せれば、被告人は自己の行為の危険性を認識して行ったと認められるとして、殺意を認めた。責任能力については、精神鑑定を行ったB医師の意見を採用し、犯行の直接の動機はAからの発信者情報開示請求等の現実の出来事に対する反撃であって、妄想よりも現実的な問題の割合が大きいとした。犯行前に凶器を購入した店で約2時間過ごし、コンビニに寄るなど迷いを見せた行動は自己の行動をコントロールする能力があったことを示すとして、完全責任能力を認めた。量刑については、被害者の精神科医としての落ち度は大きいとしつつも、被告人自身も誹謗中傷の書き込みをさせたことが犯行につながっており強く非難されるべきであるとし、前科前歴がないこと等を考慮してもなお実刑が相当であるとして、懲役4年(求刑懲役5年)を言い渡した。