傷害致死,窃盗,死体遺棄
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人Aは、自宅で同居していた被害者D(当時31歳)に対し、平成30年9月頃から日常的に暴行を加えていた。平成31年1月15日からは被告人Bも同居を始め、被告人両名は、Dに対し、手拳で殴る、蹴る、手足や首をひもや針金で縛る、ベランダに出す、摂氏60度の湯を浴びせるなどの苛烈な暴行・虐待を繰り返していた。Dは同年1月28日以降外出した形跡がなく、2月1日朝には食事もとれず意識がもうろうとした状態に陥り、2月2日午後に死亡が確認された。被告人両名は、暴行の発覚を恐れ、共犯者Cと共謀してDの遺体を豊田市内の山林に投棄した(死体遺棄)。さらに、被告人両名は共謀の上、Dの貯金口座から障害年金13万円を現金自動預払機で引き出した(窃盗)。検察官は、2月1日夜に被告人両名がDの顔面を膝蹴りするなどの暴行を加え、外傷性脳障害により死亡させたとして傷害致死罪でも起訴した。 【争点】 傷害致死罪の成否が最大の争点であり、具体的には、(1)2月1日夜に被告人両名による公訴事実記載の暴行があったか、(2)被告人両名の間に共謀が認められるか、(3)暴行とDの死亡との間に因果関係があるか、が問題となった。検察官は、被告人Bの公判供述を唯一の直接証拠として、同日夜の暴行の存在を立証しようとした。これに対し、被告人Aの弁護人は同日夜の暴行を否認し、被告人Bの弁護人は膝蹴りの程度を争った。 【判旨(量刑)】 裁判所は、傷害致死の公訴事実について被告人両名を無罪とした。その理由として、唯一の直接証拠である被告人Bの公判供述には看過できない問題点があることを指摘した。すなわち、暴行態様に関する供述が捜査段階と公判段階で重要な点(Dが自力で起き上がれたか、頭部を床に打ち付けたか等)について無視できない変遷があり、各回の暴行についても具体性・迫真性に欠けること、暴行の動機も不自然であることなどから、同供述の信用性に合理的な疑いが残ると判断した。また、医学的証拠から、2月1日夜以前に既にDに外傷性脳障害が発生していた可能性が否定できないこと、被告人Aの子らの供述も2月1日夜の暴行を述べていないことも考慮された。裁判所は、被告人両名がDの死亡に責任を負うべきと考えるのが素直であるとしつつも、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従い、訴因として設定された2月1日夜の暴行を認定できない以上、傷害致死罪の成立を認めることはできないとした。さらに、検察官が公判前整理手続で主張しなかった同時傷害の特例や因果関係の予備的主張を論告で初めて行ったことについても、不意打ち的で相当性を欠くと指摘した。死体遺棄罪及び窃盗罪については有罪とし、被告人Aを懲役2年8月、被告人Bを懲役2年に処した上、いずれも執行猶予4年(保護観察付き)とした(求刑は被告人Aにつき懲役12年、被告人Bにつき懲役8年)。