AI概要
【事案の概要】 被告が運営するグループホームに入居していた亡A(要介護度4、アルツハイマー型認知症)は、昼食中にミキサー食の食事介助を受けていたところ、顔色が蒼白となり、黒目が上転して脱力し、意識を喪失した。施設管理者が駆け付けて口内の食べ物や痰を除去し、医師の指示を受けて背部叩打法を施し、救急車を要請したが、救急隊到着時にはAは心肺停止の状態であり、病院搬送後に死亡が確認された。死亡診断書上の直接死因は窒息とされた。なお、Aは約1年10か月前に膵癌と診断され、余命1年程度と告げられていたが、高齢と認知症を考慮して手術は行わない判断がされており、老衰による突然の心停止等も起こり得ると医師から説明されていた。Aの子である原告は、被告の従業員が食事介助を適切に行う注意義務等に違反した過失によりAが死亡したと主張して、不法行為又は安全配慮義務違反の債務不履行に基づき、約3668万円の損害賠償を求めた。 【争点】 主な争点は、(1)被告又はその従業員による過失の有無(食事介助時の注視義務違反、誤嚥への即時対応義務違反、吸引器・AEDの常備義務違反、体制整備義務違反)、(2)過失とAの死亡との間の因果関係の有無、(3)損害額であった。特に、Aの死因が食物による窒息であるか否かが中心的な争点となった。 【判旨】 裁判所は、まず因果関係の有無について検討した。医学的知見によれば、急性窒息では通常、チアノーゼ、呼吸困難、痙攣等の症状が発現するところ、Aにはチアノーゼが発現せず、大きく呼吸をしており、口内の食べ物や痰を除去しても意識喪失の状態が変化しなかった。また、救急隊による吸引でも気道閉塞をうかがわせる固形物は確認されなかった。これらの事実は窒息の機序とは整合しないと判断した。さらに、Aは膵癌により余命1年程度と診断されてから約1年10か月が経過しており、老衰による突然の心停止等が生じ得る状態にあったことも指摘した。原告は、貧血時にはチアノーゼが出現しにくいと主張したが、Aのヘモグロビン値は基準値を僅かに下回る程度にすぎず、チアノーゼが出現しないのが通常とはいえないとした。以上から、Aの死因が食事中の窒息にあったとは認められず、過失とAの死亡との間に因果関係は認められないとした。念のため過失の有無についても判断し、従業員Cの食事介助は適切であったこと、Aの症状は窒息の典型的症状と整合せず直ちに窒息を疑うべき状態ではなかったこと、施設管理者Dの対応も医師との連携を含め適切であったこと、吸引器の常備は医行為に関する登録がなく前提を欠くこと、AEDの設置義務を定めた法令はないこと等から、いずれの注意義務違反も認められないとして、原告の請求を棄却した。