訴訟行為の排除を求める申立ての却下決定に対する抗告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、HIV治療薬に関する特許権(HIVインテグラーゼ阻害活性を有する多環性カルバモイルピリドン誘導体)を有する抗告人ら(塩野義製薬及びヴィーブヘルスケアカンパニー)が、被告(ギリアド・サイエンシズ)に対して10億円の損害賠償を求める特許権侵害訴訟(基本事件)において、被告の訴訟代理人であるA弁護士らの訴訟行為の排除を求めた事案である。 A弁護士らが所属する法律事務所には、かつて抗告人塩野義の社内弁護士として基本事件の訴訟準備に深く関与していたC弁護士が入所していた。C弁護士は塩野義在籍中、知的財産部のサブグループ長として、本件特許に対応する米国・カナダでの特許侵害訴訟の準備やディスカバリー対応、訴訟戦略の検討等を行い、基本事件の訴訟提起準備にも中心的に関与していた。A弁護士は、C弁護士の入所が内定している状況下で被告から基本事件を受任し、情報遮断措置を講じたが、抗告人らは弁護士職務基本規程57条違反を理由にA弁護士らの訴訟行為の排除を申し立てた。原審はA弁護士らに「職務の公正を保ち得る事由」があるとして申立てを却下したため、抗告人らが即時抗告した。 【争点】 (1) 弁護士職務基本規程57条違反を理由とする訴訟行為排除の申立権の有無 (2) A弁護士らの訴訟行為が同規程57条に違反するか否か (3) A弁護士らに同条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」があるか 【判旨】 知財高裁は原決定を取り消し、A弁護士らの訴訟行為の排除を命じた。 第一に、弁護士職務基本規程57条違反を理由とする訴訟行為排除の申立権について、同条の趣旨が弁護士法25条1号と共通し、先に弁護士を信頼して協議・依頼をした当事者の利益保護を目的とすることから、相手方当事者は裁判所に対し同条違反を理由とする訴訟行為排除の申立権を有すると判断した。 第二に、C弁護士が塩野義の社内弁護士として基本事件の訴訟準備に中心的に関与していた事実から、基本事件はC弁護士にとって「協議を受けて賛助した事件」に該当し、A弁護士らの訴訟行為は同規程57条本文に該当すると認定した。 第三に、「職務の公正を保ち得る事由」について、A弁護士が講じた情報遮断措置は、8名が同一執務室で執務し事務職員も共通という事務所の物理的構造に照らし、口頭による情報伝達を遮断するには限界があり十分でないと判断した。C弁護士の在籍期間が約1か月と短期であった点、退所後は情報漏洩のおそれがない点、懲戒処分等の抑止力がある点についても、いずれも疑念を払拭するに足りないとした。また、高度に専門的な訴訟であっても本件事務所以外に代理人となりうる弁護士が存在しないとは考えられないとして、裁判を受ける権利の侵害の主張も退けた。