殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成31年1月に交際していた被害者から理由の説明がないまま一方的に別れを告げられ、LINEもブロックされた上、共に所属していたSNS上のコミュニティからも排除された。その後、被告人は鬱病を発症して休職するに至り、被害者に対して説明と謝罪を求め、それがなければ被害者を傷つけようと考えるようになった。令和元年6月13日、被告人は千葉県市川市の自宅から札幌市に移動し、シースナイフ、ペティナイフ、フォールディングナイフの3本を購入した上、北海道美唄市の被害者の住むアパートに赴いて帰宅を待ち伏せた。帰宅した被害者に約30分間にわたり説明と謝罪を求めたが、期待した回答は得られず、強い口調で帰るよう言われたことから、犯行に及んだ。被告人は「借りた物を返すから」と言いながらリュックサックからシースナイフを取り出し、被害者の上半身に向けて突き出したが、被害者に手首をつかまれてナイフを落とされた。さらにペティナイフを取り出して再び被害者の上半身に向けて突き出し、被害者に右上腕部切創(全治9日間)及び左胸部刺創の傷害を負わせたが、殺害には至らなかった。殺人未遂及び銃刀法違反で起訴された。 【争点】 本件では、(1)殺意の有無と(2)心神耗弱の成否が争われた。弁護人は、被告人はナイフを被害者に突き出しておらず殺意はなかったと主張するとともに、犯行当時、精神病症状を伴う重症の鬱病に罹患しており心神耗弱の状態にあったと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、まず殺意について、被害者供述と被告人供述を比較検討した。被害者供述は、被害者の左胸部の刺創の態様(皮膚面にほぼ垂直に刺さり深さ0.5cm)と整合すること、出来事の経過全体を自然に説明するものであること等から信用性を認めた。一方、被告人供述は、被害者にずっと手を押さえられていたとしながらリュックサックからナイフを取り出したり持ち替えたりできたとする点が不自然であるとして排斥した。そして、殺傷能力の高いナイフを幅約1.6mの狭い廊下で被害者の上半身に向けて2回突き出した行為態様から、被告人は被害者が死亡する危険性の高い行為を意識的に行ったと認定し、殺意を認めた。 心神耗弱の主張については、被告人が説明と謝罪があれば何もしないという選択肢を持ち、約30分間抑制の効いたやり取りをしていたこと、犯行時も目的に沿った合理的行動をとっていたこと等から、自らの行動をコントロールできていたと認定した。また、被告人の犯行に至る判断や行動は鬱病の症状から直接導かれるものではなく、被告人のパーソナリティ傾向から説明できるとして、心神耗弱を否定した。 量刑については、ナイフ複数本を準備した計画性や行為の危険性の高さを指摘しつつ、一方的な交際解消等の経緯や鬱病による判断力低下という酌むべき事情を認め、被害者との示談成立・被害者の宥恕、前科前歴がないこと等を考慮して、懲役3年・執行猶予5年とした(求刑懲役4年)。