殺人,死体遺棄,建造物侵入,窃盗
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成30年2月頃から勤務先に行かなくなり、両親のクレジットカードを合計113万円以上無断使用するなど、経済的に問題のある生活を送っていた。平成30年9月頃から再び両親と同居を始めたが、車のローン代の支払いを巡って母親との間で軋轢が生じていた。 平成31年1月24日、ローンの支払いについて母親(当時66歳)と口論になり、母親から「お前じゃない方がよかった。」と言われた。被告人は、生後すぐに死亡した兄が健在であれば自分は生まれなかったという境遇を思い、自身の存在を否定されたと感じて激しい怒りを覚え、母親の背後から金づちで後頭部を殴打し、倒れた母親に馬乗りになって首を両手で数分間絞め続け、さらにキッチンから包丁を持ち出して左胸を突き刺して殺害した。 その後、母親の遺体を寝室に移し、現場の血液を拭き取って隠蔽を図った。翌25日午前2時頃、母親殺害の事実が実父(当時68歳)に露見し警察に申告されるのを防ぐため、父親の背後から包丁で背中を突き刺して殺害した。被告人は両親の遺体を約2か月間自宅寝室に放置し、その間、父親の携帯電話で職場関係者に連絡して両親が海外に行ったと偽り、姉らや警察に対しても両親になりすますなどの生存偽装工作を続けた。さらに、父親名義の預金口座から計103万8000円をATMで引き出した。なお、両親殺害に先立つ平成30年8月には、元勤務先に侵入してプロペラ2枚(時価合計約230万円相当)を窃取する建造物侵入・窃盗も犯していた。 【争点】 父親殺害の動機が争われた。検察官は、母親殺害の事実が父親に露見し警察に申告されるのを防ぐためであると主張した。これに対し被告人は、犯行前に父親に母親殺害を打ち明け、共に警察に出頭する予定であったが別の理由で殺害に及んだと供述し、弁護人もこれに沿う主張をした。 【判旨(量刑)】 裁判所は、父親殺害の動機について、被告人が母親殺害後に遺体を隠し、父親殺害直後には職場関係者に虚偽の連絡をし、逮捕まで一貫して生存偽装工作をしていたこと、父親との間にトラブルがなかったこと等から、母親殺害の露見・警察申告を防ぐ目的であったと認定した。被告人の供述については、長年良好な夫婦関係にあった父親が妻の殺害を聞かされても黙って仕事に出たというのは不自然であり、また父親がパジャマ姿で発見された事実は出頭予定の供述と矛盾するとして、信用できないと判断した。 量刑については、2名の尊い命を奪った結果の重大性、母親に対する金づち殴打・首絞め・包丁刺突という執拗かつ確実に死に至らしめる殺害方法、父親に対するためらいのない背後からの一撃、いずれの殺害についても身勝手で酌量の余地のない動機を重視した。弁護人は計画性がないことを主張したが、裁判所は、母親殺害から約16時間後に反省の機会がありながらさらに父親殺害に及んだ意思決定は強い非難に値し、計画性がないことは非難を大きく弱める要素とならないとした。被告人の自白や前科前歴のないことを考慮しても有期懲役刑を選択する余地はないとして、求刑どおり無期懲役を言い渡した。