特許権持分一部移転登録手続等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、京都大学大学院生命科学研究科の修士課程に在籍していた原告が、名称を「癌治療剤」とする特許権(抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤に関する発明)について、自らが共同発明者の一人であると主張して、特許権を共有する被告小野薬品工業及び被告Y(ノーベル生理学・医学賞受賞者)に対し、(1)発明者であることの確認、(2)特許法74条1項に基づく特許権の持分各4分の1の移転登録手続、(3)原告を共同発明者として出願しなかったことによる損害賠償1000万円の連帯支払を求めた事案である。 原告は、平成12年4月にZ教授の研究室に入室後、W助手の指導の下、PD-1/PD-L1の相互作用とがん免疫に関する一連の実験(抗PD-L1抗体の性状確認、P815/PD-L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験、DBA/2マウスへの移植実験等)を実際に遂行し、その成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に論文として発表された。同論文では原告は共同第一著者とされ、「AとXは本研究に等しく貢献した」との脚注が付されていた。本件特許の明細書に記載された実施例1〜3及び5の実験データは、このPNAS論文と概ね同一のものであった。 【争点】 (1) 発明者であることの確認の利益の有無(争点1) (2) 原告が本件発明の共同発明者に該当するか(争点2) (3) 特許権の持分移転登録請求の可否(争点3) (4) 不法行為の成否及び損害額(争点4) 【判旨】 裁判所は、争点1について、発明者であることの確認請求は事実関係の確認を求めるものにすぎず、不法行為に基づく損害賠償という給付の訴えで足りるとして、確認の利益を否定し、この部分を却下した。 争点2について、裁判所は発明者の判断基準として、特許請求の範囲に基づく技術的思想の特徴的部分を着想し、それを具体化することに現実に加担したことが必要であるとした上で、(1)技術的思想の着想における貢献、(2)抗PD-L1抗体の作製・選択における貢献、(3)実験系の設計・構築における貢献及び個別実験の遂行過程における創作的関与の程度を総合考慮すべきとの枠組みを示した。 その上で、(1)抗PD-L1抗体がPD-1とPD-L1の相互作用を阻害しがん免疫の賦活をもたらすとの技術的思想を着想したのは被告Y及びZ教授であり、原告は実験開始当時この認識を有していなかったこと、(2)抗PD-L1抗体の作製に貢献した主体はZ教授及びW助手であること、(3)個々の実験系の設計・構築はZ教授が行い、原告はその指導・助言の下で実験を遂行したにすぎないことを認定し、原告の貢献は限られたものであり発明者とは認められないと判断した。論文の共同第一著者であることや博士号取得の根拠論文となったことも、直ちに発明者性を推認させるものではないとした。 以上により、発明者確認請求は却下、その余の請求はいずれも棄却された。