殺人被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30あ728
- 事件名
- 殺人被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日
- 2020年8月24日
- 裁判種別・結果
- 決定・棄却
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 平成19年生まれの被害者は、平成26年11月に1型糖尿病と診断された。1型糖尿病は、生命維持に必要なインスリンが体内でほとんど生成されない疾患であり、現代医学では完治しないが、インスリンを定期的に投与すれば通常の生活を送ることができる。被害者の母親は、被害者が難治性疾患にり患したことに強い精神的衝撃を受け、非科学的な力による難病治療を標ぼうしていた被告人に治療を依頼した。被告人は、1型糖尿病に関する医学的知識がなかったにもかかわらず、被害者を完治させられると断言し、治療契約を締結した。被告人による「治療」と称する行為は、透視や遠隔操作なるものであった。被告人は平成27年2月、母親に対し「インスリンは毒である」として投与中止を指示した。一度被害者の症状が悪化して再入院した後、両親がインスリン投与を再開すると、被告人はこれを強く非難し、自身の指導に従わなければ被害者は助からないなどと脅しめいた文言を交えて執ように働きかけた。母親は被告人を信じ、半信半疑だった父親も説得して、同年4月6日を最後にインスリン投与を中止した。その後、被害者は衰弱が進み、同月27日、糖尿病性ケトアシドーシスにより死亡した。 【争点】 被告人の行為が殺人罪に該当するか、とりわけ、被告人が母親を道具として利用した間接正犯が成立するか、また、不保護の故意を有するにとどまる父親との共謀が認められるかが争点となった。 【判旨(量刑)】 最高裁は、被告人が、インスリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的危険性を認識しながら、医学的根拠もなく、自身を信頼して指示に従っている母親に対し、脅しめいた文言を交えた執ようかつ強度の働きかけを行ったと認定した。その結果、母親は被害者にインスリンを投与するという期待された作為に出ることができない精神状態に陥っており、被告人もこれを認識していたと認められるとした。また、父親との間では、母親を介してインスリン不投与について相互に意思を通じていたと認定した。以上から、被告人は未必的殺意をもって母親を道具として利用するとともに、不保護の故意のある父親と共謀の上、被害者を死亡させたものであり、殺人罪が成立するとして上告を棄却した。本決定は裁判官全員一致の意見である。