公職選挙法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 第25回参議院議員通常選挙において、立候補者Aの選挙運動者として活動していた被告人が、共犯者2名と共謀の上、車上運動員ら14名に対し、選挙管理委員会の定める報酬支給限度額(1日1万5000円)の2倍に当たる1日3万円の報酬を支払い、合計204万円を選挙運動の報酬として供与した公職選挙法違反の事案である。被告人は、選挙対策本部の遊説責任者として、車上運動員の出勤状況を確認・集計し、会計担当者に対して限度額を超える報酬の支払いを指示する役割を担っていた。原審(広島地方裁判所)は被告人に共同正犯の成立を認め、懲役1年6月・執行猶予5年を言い渡した。被告人側はこれを不服として控訴し、幇助犯にとどまるとの事実誤認及び罰金刑が相当であるとの量刑不当を主張した。 【争点】 第一の争点は、被告人に共同正犯が成立するか、それとも幇助犯にとどまるかである。弁護側は、被告人には報酬支払いの決定権限がなく会計担当者に依頼しただけであること、出勤状況の集計や報酬支払いの手配は適法な報酬であっても当然行うべき業務であること、本件はG衆議院議員またはA候補が被告人を介して支払ったというべき事案であることなどを主張した。第二の争点は量刑の当否であり、弁護側は、供与額の半額は適法に受領できた金額であり実質的には形式犯であること、車上運動員への限度額超過は全国で常態化しており限度額が非常識に低廉であること、被告人の役割は極めて従属的・受動的であったことなどを理由に、罰金刑が相当であると主張した。 【判旨(量刑)】 広島高等裁判所は、控訴を棄却した。共同正犯の成否について、被告人は遊説責任者として車上運動員に関する事務全般を担当し、出勤日数等の集計表を作成して会計担当者に交付した上で報酬の支払いを指示しており、会計担当者は明白な誤記等を除き被告人の指示どおりに支払いを行う立場にあったと認定した。限度額超過の報酬支給を認識しながらの集計表作成は金銭供与の不可欠の前提をなす重要な準備行為であり、これに加えて支払指示という実行行為そのものを行っていることから、共同正犯の成立は明らかであるとした。被告人が上位者の道具的立場にあったとの主張についても、被告人は自己の意思で主体的に行動しており、適法行為の期待可能性がなかったとはいえないとして退けた。量刑については、公職選挙法の無報酬原則の趣旨を説示し、限度額が低廉であるとの主張は法を軽視する立論であり、他に違法行為が広く行われている実態を有利に考慮すべきとの主張は論外であると厳しく指摘して、懲役1年6月・執行猶予5年の原判決の量刑は重すぎて不当とはいえないと判断した。