AI概要
【事案の概要】 D(昭和10年生)は、平成2年9月から平成17年9月まで、被告太平ビルサービス株式会社(被告会社)に雇用され、被告北九州市(被告市)が設置した北九州市立総合体育館の設備管理業務等に従事していた。同体育館は昭和48年竣工の建物であり、壁面や天井等に石綿含有吹付けロックウール(石綿含有率12〜14.5%)をはじめとする石綿含有建材が多数使用されていた。Dは約15年間にわたり、石綿粉じんが飛散する環境下で設備の点検・管理業務に従事した結果、石綿肺(じん肺)及び肺がんにり患し、平成17年に左肺下葉を摘出した。その後、著しい肺機能障害を抱えながら療養を続けたが、平成25年9月14日(当時78歳)、細菌性肺炎を原因とするARDS(急性呼吸窮迫症候群)により死亡した。 Dの相続人である原告ら(妻及び子2名)が、被告市に対しては国家賠償法1条1項又は2条1項に基づき、被告会社に対しては民法415条又は709条に基づき、合計約3465万円の連帯支払を求めた事案である。 【争点】 (1) Dが石綿ばく露作業に従事していたか、(2) 石綿粉じんばく露と死亡との因果関係、(3) 被告市の営造物管理の瑕疵の有無、(4) 被告会社の安全配慮義務違反の有無、(5) 損害額及び減額事由の有無が争われた。 【判旨】 裁判所は、原告らの請求を一部認容した(認容額合計2580万円)。 争点(1)について、Dは石綿含有建材を直接扱う機会はさほど多くなかったものの、石綿粉じんが相当程度飛散する場所で約15年間にわたり設備管理・点検業務に従事しており、石綿ばく露の危険性を有する作業に従事していたと認定した。 争点(2)について、ヘルシンキ基準及び平成18年報告書等に基づき、Dには石綿肺の所見(じん肺法上第1型以上の不整形陰影)及び胸膜プラークが認められ、石綿粉じんばく露により肺がん発症リスクが2倍以上となる累積ばく露量に達していたと推認し、石綿ばく露と肺がんとの因果関係を肯定した。さらに、石綿肺及び肺がんによる左肺摘出で著しい肺機能障害を負い、易感染性の状態から細菌性肺炎を発症してARDSに至ったとして、石綿ばく露と死亡との因果関係も認めた。 争点(3)について、遅くともDの勤務開始時(平成2年5月頃)までには石綿含有吹付け材の危険性が広く認識されていたにもかかわらず、被告市は平成18年まで除去工事を行わなかったとして、国家賠償法2条1項の営造物管理の瑕疵を認めた。 争点(4)について、被告会社にも同時期までに予見可能性があり、石綿使用状況の調査確認義務、防じんマスクの着用確保義務、防じん教育義務をいずれも怠ったとして安全配慮義務違反を認めた。損害額につき、Dの喫煙歴による寄与度減額及び過失相殺はいずれも否定し、死亡慰謝料2400万円等を認定した。