AI概要
【事案の概要】 本件は、「水素エンジン装置」と題する発明について特許出願をした原告が、拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求めた事案である。原告は、水を燃料として化学物質(ナトリウム粒子等)との反応により水素ガスを発生させ、点火・爆発・噴射により動力を得る水素エンジンに関する発明(請求項1)及びその応用装置(請求項2)について、平成28年7月に特許出願したが、拒絶査定を受けた。審決は、引用文献1(水素エネルギー車両に関する公報)に記載された引用発明との相違点は「噴射」により動力を得る点のみであり、この点は周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たとして、特許法29条2項(進歩性欠如)を理由に請求不成立とした。 【争点】 原告は主に2つの取消事由を主張した。第1に、本願発明はナトリウム粒子(Na粒子)を用いて水素を発生させる点で引用発明と異なるのに、審決がこの点を相違点として認定しなかった誤りがあるとした(取消事由1)。第2に、本願発明は「噴射」により直接的に推進力を得る従来にない新規な手法であり、制御方式も異なる上、小型・軽量化が達成されているから、進歩性が認められるべきであるとした(取消事由2)。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。取消事由1について、裁判所は、本願の請求項1には「化学物質」とのみ記載されており、ナトリウム粒子に限定する記載はないと認定した。明細書にも「化学物質(Naなど)」と例示的に記載されているにすぎず、化学物質をNa粒子に限定して解釈することはできないとした。したがって、Na粒子の使用を相違点として認定すべきとの主張は採用できないとした。取消事由2について、裁判所は、エンジンの技術分野における「噴射」の意味を詳細に検討し、燃焼ガスを外部に噴射して直接推進力を得ること、副室から主室への燃焼ガスの噴射、燃料の燃焼室への噴射など、様々な態様を含むと認定した。請求項1では「噴射」の態様が限定されておらず、原告主張の直接推進力を得る噴射のみに限定して解釈することはできないとした。そして、水素エンジンにおいて噴射により動力を得ることは出願日当時の周知技術であり、引用発明にこの周知技術を適用して本願発明の構成を得ることは容易想到であると判断した。制御方式や小型・軽量化の主張についても、請求項1にはそれらの特定がないとして退けた。