AI概要
【事案の概要】 本件は、原告(JFEスチール)が、被告(日本製鉄)の保有する「低鉄損一方向性電磁鋼板」に関する特許(特許第5241095号)について無効審判を請求したところ、特許庁が請求不成立(特許維持)の審決をしたため、その取消しを求めた審決取消訴訟である。一方向性電磁鋼板は変圧器の鉄心等に用いられ、エネルギー変換時の損失(鉄損)を低減することが重要とされる素材である。本件特許は、鋼板の板厚内部に板厚方向の引張り応力(最大値40MPa以上かつ素材の降伏応力値以下)が存在する領域を圧延方向に7.0mm以下の間隔で形成することにより、渦電流損の低減とヒステリシス損の増加抑制を同時に実現するという技術思想に基づくものである。原告は、①サポート要件違反、②引用発明1(電子ビーム処理による磁区細分化に関する公報)に基づく新規性・進歩性の欠如、③引用発明2(レーザビーム照射による磁区制御に関する公報)に基づく新規性・進歩性の欠如を取消事由として主張した。 【争点】 主な争点は、(1)本件特許の特許請求の範囲がサポート要件(特許法36条6項1号)に適合するか、(2)引用発明1に基づき本件発明が新規性・進歩性を欠くか、(3)引用発明2に基づき本件発明が新規性・進歩性を欠くかである。特にサポート要件に関しては、「板厚方向の引張り応力の最大値が40MPa以上」であることが課題解決手段に含まれるか、また特定条件下で得られた実施例(図5)の結果を一般化できるかが争われた。新規性・進歩性については、原告が提出した再現実験(甲4、甲2)の結果をもって引用発明の鋼板内部に同様の引張り応力が発生していたといえるかが争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。サポート要件について、裁判所は、審決が「40MPa以上」を課題解決手段に含まれないとした認定は誤りであると指摘しつつも、本件明細書の記載から、板厚方向への引張り応力導入により還流磁区が形成されて渦電流損が低減する機序、及び応力の最大値を降伏応力以下に制限することでヒステリシス損の増加を抑制する機序が、磁化と応力の相互作用エネルギーの式に基づき演繹的に理解でき、当業者が課題解決を認識できる範囲内にあるとして、結論においてサポート要件に適合すると判断した。引用発明1及び2に基づく新規性・進歩性の欠如については、原告の再現実験がいずれも引用例の条件を忠実に再現したものとはいえず、再現実験で引張り応力が確認されたとしても引用発明の鋼板に同様の応力が存在するとは認められないとし、また引用例には板厚方向の引張り応力の導入やその数値範囲について記載も示唆もないことから、相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得ないと判断した。