原状回復等請求控訴,同附帯控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)に伴う津波により、東京電力(一審被告東電)が設置・運営する福島第一原子力発電所1~4号機から放射性物質が放出される事故(本件事故)が発生した。福島県及び隣接する宮城県・茨城県・栃木県に居住していた提訴時一審原告ら3864人が、一審被告東電及び一審被告国に対し、①旧居住地の空間放射線量率を事故前の値に戻すこと(原状回復請求)、②平穏生活権侵害による慰謝料(月額5万円)、③帰還困難区域等の一審原告ら40人については「ふるさと喪失」による慰謝料(600万円に減縮)の各支払を求めた事案の控訴審である。原審(福島地裁)は、原状回復請求を却下し、一審被告東電の原賠法3条1項に基づく責任を一部認容したほか、一審被告国の国賠法1条1項に基づく責任を東電認容額の2分の1の限度で認容し、「ふるさと喪失」損害は全部棄却した。双方が控訴した。 【争点】 主な争点は、①原状回復請求の適法性、②一審被告東電の民法709条に基づく損害賠償責任の可否、③一審被告国の規制権限不行使の違法性(予見可能性・結果回避可能性を含む)、④損害(平穏生活権侵害及び「ふるさと喪失」損害の有無と額)である。特に国の責任については、地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」の見解の信頼性と、これを踏まえた経済産業大臣の技術基準適合命令に係る規制権限行使義務の有無が中心的に争われた。 【判旨】 本判決は、原状回復請求を不適法として却下し、一審被告東電に対する民法709条の主位的請求は原賠法が特則であるとして棄却した上で、原賠法3条1項に基づく東電の無過失責任を認めた。 一審被告国の責任については、まず予見可能性に関して、「長期評価」の見解は地震本部が公表したものとして相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であり、遅くとも平成14年末頃までに福島第一原発にO.P.+10mを超える津波が到来することを予見し得たと認定した。結果回避可能性についても、防潮堤の設置や重要機器室等の水密化により事故回避が可能であったことが事実上推認されるとした。その上で、保安院が平成14年8月のヒアリングで東電の不誠実な報告を唯々諾々と受け入れたことや、その後も適切な対応をとらなかったことを厳しく批判し、経済産業大臣の規制権限不行使は遅くとも平成18年末までに著しく合理性を欠くに至り、国賠法1条1項の適用上違法であると判断した。国の責任範囲については、原審が東電の2分の1に限定したのとは異なり、東電と国は不真正連帯債務の関係にあるとして、国も損害全体について賠償責任を負うとした。 損害論では、旧居住地ごとに一審原告らを9グループに分け、帰還困難区域等の一審原告らについては、強制転居に150万円、避難生活の継続に月額10万円(85か月分で850万円)、「ふるさと喪失」損害に600万円の合計1600万円の精神的損害を認め、中間指針等による賠償額1450万円を超える150万円を認容した。原審が全部棄却した「ふるさと喪失」損害を控訴審で初めて認容した点が重要であり、居住地は人格形成の基盤であって、帰還困難区域の一審原告らはほぼ不可逆的にその基盤を破壊されたと評価した。