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【事案の概要】 レストランの従業員であった亡A(死亡当時33歳)は、月間約250時間もの時間外労働に従事していたところ、平成24年11月20日頃から頭痛・関節痛等の症状を呈し、同月24日に急性心筋炎の疑いで緊急入院した。入院当日夜から心臓の状態が急激に悪化して劇症型心筋炎・急性心不全と診断され、転院先で補助人工心臓を装着する手術を受けたものの、平成26年6月2日、人工心臓の合併症である脳出血により死亡した。亡Aの配偶者である被控訴人が、亡Aの疾病及び死亡は長時間労働等の過重業務が原因であるとして、労災保険法に基づく療養補償給付等の支給を請求したが、処分行政庁がいずれも不支給としたため、その取消しを求めた。原審は業務起因性を認めて本件各処分を取り消したため、国が控訴した。 【争点】 (1) 免疫力の低下を理由とする劇症型心筋炎の発症及び死亡の業務起因性の有無 (2) 治療機会の喪失を理由とする劇症型心筋炎の発症及び死亡の業務起因性の有無 【判旨】 控訴認容(原判決取消し、被控訴人の請求をいずれも棄却)。 争点(1)につき、裁判所は、亡Aが常軌を逸した長時間労働に従事していたことは認めつつも、以下の理由から業務起因性を否定した。まず、長時間労働や睡眠不足が免疫力の低下をもたらす可能性は否定できないものの、亡Aについては、入院時の血液検査で免疫力低下を示す所見がなく、風邪にかかりやすくなっていた事実やヘルペス等の症状もなかったことから、免疫力が低下していたとまでは認め難いとした。さらに、劇症型心筋炎の発症機序は医学的に不明であり、その劇症化には免疫力の低下ではなく自己免疫の亢進(過剰な防御機構)等が複雑に関係しているとの医学的知見が示されているところ、過重労働が免疫の過剰反応を生じさせるとの知見は存在しないとした。被控訴人は、風邪が過重労働によりかかりやすく重篤化するという経験則が同じウイルス感染症である劇症型心筋炎にも当てはまると主張したが、裁判所は、劇症型心筋炎と風邪とは発症態様が相当異なる疾病であり、風邪についての経験則を劇症型心筋炎に当てはめることは医学的知見に照らして首肯し得ないと判断した。 争点(2)につき、裁判所は、亡Aには勤務の休憩時間を利用して医療機関を受診する機会があったこと、実際に同月23日に診療所を受診した際も医師が心筋炎を疑わなかったこと、安静・臥床等の治療で劇症化を防ぎ得るとの医学的根拠がないこと、さらに入院後に設備の整った病院で治療を受けている中で劇症化が急激に進行した経過等を踏まえ、治療機会の喪失と疾病の増悪との因果関係も認められないとして、被控訴人の主張を退けた。