遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 社会医療法人が開設する病院で看護師として勤務していたC(当時34歳)は、幼少期から重度の吃音(きつ音)を有していた。Cは平成25年4月に同病院に採用され、循環器内科の第4病棟に配属されたが、患者への説明時に緊張すると言葉が出なくなることがあり、患者から「何を言っているか分からない」「気持ち悪い」等の苦情を受けることも少なくなかった。病院では、Cに対し心臓カテーテル検査の説明板を読み上げる事前練習を複数回実施したほか、指導担当者から業務上のミス等について厳しい叱責を受けることもあった。同年6月24日、看護課長Gとの面談で報連相の不足や技術習得の遅れ等を指摘され、試用期間を1か月延長する旨通告されたが、延長後に課題を達成できなかった場合の処遇については説明されなかった。Cはその頃適応障害を発病し、同年7月上旬にはうつ病エピソードを発病、同月26日に自宅で自殺した。Cの父である原告が遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ、札幌東労働基準監督署長はこれを不支給とする処分をしたため、原告が同処分の取消しを求めて提訴した。 【争点】 Cの精神障害の発病及び死亡(自殺)について業務起因性が認められるか。具体的には、①業務上の心理的負荷の評価基準となる「同種の労働者」をどのように解するか(吃音を有する労働者を基準とすべきか)、②説明練習の繰返しが「ひどい嫌がらせ・いじめ」に該当するか、③試用期間延長に伴う課題の指示が「達成困難なノルマ」に該当するか、④患者からの苦情による心理的負荷の程度、⑤これらの出来事を総合評価した場合の心理的負荷の強度が争われた。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を認容し、不支給処分をいずれも取り消した。まず、業務起因性の判断基準となる「同種の労働者」について、Cは吃音を理由とした労務軽減が必要な者ではなく、吃音を有しながらも他の看護師と同様の勤務に就くことが期待できた者であるとして、特段の労務軽減なしに通常の新人看護師としての業務を遂行できる者を基準とすべきとした。個別の出来事については、説明練習は吃音の改善という不可能を強制するものではなく業務指導の範囲内であるとして「ひどい嫌がらせ」には該当しないとし(心理的負荷「弱」)、面談での課題指摘及び試用期間延長については「達成困難なノルマ」及び「契約満了が迫った」に類似するとして心理的負荷「中」、患者からの苦情についても心理的負荷「中」と認定した。その上で、約3か月の短期間に心理的負荷「中」の複数の出来事が重なり、患者とのコミュニケーション問題を含む課題を改善しなければ勤務継続ができなくなる可能性という不安が加わったことを総合的に考慮し、全体的な心理的負荷は精神障害を発病させる程度に強度のものであったと認定。Cの精神障害の発病及び自殺は業務に内在する危険が現実化したものと評価し、業務起因性を認めた。