AI概要
【事案の概要】 原告(不動産賃貸業を営む株式会社)は、被告(スポーツジム経営会社)に対し、昭和59年築の地上6階・地下1階建ての建物のうち4階から6階部分を賃貸していた。当該部分はスポーツジム仕様で、5階には建物の設計段階から組み込まれた長さ25mの屋内プール及び地下から5階に至る配管類が設置されていた。賃貸借契約には「本物件を返還明渡す状態はスケルトンとする」との条項(本件スケルトン条項)が含まれていた。被告は平成30年1月31日に中途解約して鍵を返却したが、ロッカー等の残置物を撤去したのみで、特段の原状回復工事は行わなかった。原告は、スケルトン条項に基づきプール及び配管類の撤去を含む原状回復工事費用約1億5300万円の損害賠償と、目的物返還義務の不履行に基づく月額162万円の賃料相当損害金の支払を求めた。 【争点】 (1) 本件スケルトン条項に基づき、被告が25mプール及びその配管類を全て撤去する義務を負うか。 (2) 本件スケルトン条項が公序良俗に反し無効か。 (3) 原状回復義務の不履行による損害額。 (4) 鍵返却後も目的物返還義務の不履行があるか、及びその損害額。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を約4217万円の限度で一部認容し、その余を棄却した。まず、「スケルトン」の用語について、躯体のみの状態を意味する例がある一方、内装設備がない状態を意味する例もあり、一義的な定義とはいい難いと判断した。その上で、25mものプールは建物の設計段階から組み込まれた構造物であり、配管類も地下から5階に及ぶ大規模なものであるから、その撤去には相当な工事規模と高額な費用が想定されるところ、賃貸借契約書にプール撤去義務を個別具体的に明記した条項はなく、契約締結時に撤去の話が出た形跡も認められないとして、スケルトン条項による原状回復義務にはプール及び配管類の撤去は含まれないと判断した。損害額については、プール関連を除く解体工事、看板撤去、電気設備・機械設備の撤去工事等について各見積書を精査し、経年劣化に係る補修やリフォーム工事に該当するものを除外した上で、工事費用約3905万円(消費税加算後約4217万円)を認容した。弁護士費用については、契約上の債務不履行に基づく請求にすぎず、相当因果関係ある損害とは認め難いとして否定した。目的物返還義務の不履行については、協議が不調に終わった最大の原因は原告がプール撤去を求めたことにあり、被告にその義務がない以上拒否はもっともであること、また契約上原状回復工事は貸主との協議の上で指定業者が行うとされていたことから、被告が工事を行わなかったことをもって返還義務の不履行とはいえないとして、賃料相当損害金の請求を棄却した。