過失運転致死,道路交通法違反被告事件
判決データ
- 事件番号
- 令和1わ1017
- 事件名
- 過失運転致死,道路交通法違反被告事件
- 裁判所
- 福岡地方裁判所
- 裁判年月日
- 2020年10月26日
- 裁判官
- 岡忠之
AI概要
【事案の概要】 令和元年8月1日午前1時36分頃、福岡県内の市道上に仰臥していた被害者(当時49歳)が車両に轢過され、大動脈断裂等の傷害により死亡した事件である。被告人は、普通乗用自動車(ホンダステップワゴン)を運転して娘を後部座席に乗せた状態で現場付近を通過しており、検察官は被告人が前方不注視のまま被害者を左前輪で轢過して死亡させた過失運転致死と、救護義務違反・報告義務違反の道路交通法違反で起訴した。なお、被告人は現場通過後にUターンして倒れている被害者を発見し、一旦帰宅して娘を降ろした後、自ら2回にわたり110番通報を行っている。 【争点】 本件の争点は、(1)被告人車両が被害者を轢過したかどうか(犯人性)、(2)被告人の過失の有無、(3)被告人が被害者を轢過したことの認識の有無の3点であった。事故を直接目撃した者はおらず、現場路面や被告人車両に残る痕跡、被害者の遺体の損傷状況等から事故状況を推定するほかなかった。被告人車両の左前輪内側サイドウォールに付着した皮脂様物質から被害者のDNA型と一致する人由来物質が検出されたことが、被告人車両による轢過を裏付ける決定的な証拠となり得るものであった。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人に無罪を言い渡した。まず、事故現場の実況見分を行ったA警察官は、被告人車両が仰臥位の被害者を左前輪で轢過し左後輪ではじき飛ばしたと推定したが、その推定によれば被害者の上半身が車底部に入る必要があるところ、司法解剖を行ったB医師は、車底部に巻き込まれていれば突起物による傷が必ずできるはずだがそのような損傷はないとして、この態様を明確に否定した。B医師は独自に、左前輪外側が右側頭部をかすめるように通過したとの事故態様を推定し、DNA付着の機序は左足踵部分の轢過によると証言したが、裁判所は、仰向けの被害者の踵後面にタイヤが直接接触する体勢は不自然であり、現場路面の痕跡とも整合しないと指摘した。結局、2名の専門家がいずれも左前輪内側へのDNA付着機序を合理的に説明できず、しかも互いに矛盾する事故態様を証言していることから、被告人車両による轢過の立証は不十分と判断された。また、被告人の「靴のようなものを轢いただけ」との弁解についても、安全靴のDNA型鑑定結果は、事故後8か月以上にわたる不十分な保管状態を考慮すると有罪認定の根拠とはできないとして排斥せず、犯罪の証明がないとして刑事訴訟法336条により無罪が言い渡された。