傷害,暴行
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、当時の交際相手の子である7歳の児童2名(A及びB)に対し、平成27年11月16日、東京都府中市内の路上で、それぞれの着衣の後ろ襟付近を手でつかんで身体を持ち上げ、植え込みの中に投げ込む暴行を加えた。Bには全治約20日間を要する外傷性亜脱臼等の傷害を負わせた(第1の事実)。Aに対しても同様の暴行を加えた(第2の事実)。さらに、平成28年4月3日、府中市内の公園で、Aの頭部に回転性加速度減速度運動を伴う外力を加える暴行により、急性硬膜下血腫及び脳浮腫、重度の認知機能障害等の後遺症を伴う脳実質損傷の傷害を負わせたとして起訴された(第3の事実)。原審(東京地裁立川支部)は全事実を有罪と認定し、被告人を懲役3年の実刑に処した。これに対し被告人側が、訴訟手続の法令違反、事実誤認及び量刑不当を理由に控訴した。 【争点】 主たる争点は、第3の事実(公園でのAに対する傷害)について、被告人がAの頭部に強い回転性加速度減速度運動を伴う外力を加える暴行を行ったと認定できるかであった。弁護側は、Aが公園のベンチの背もたれから飛び降りて転倒した際に受傷した可能性や、前日に相撲で頭部を打った影響で架橋静脈が脆弱化していた可能性を主張し、被告人の犯行ではないと争った。検察側は、7歳児の自過失による転倒程度では重篤な硬膜下血腫は生じ得ず、防犯カメラ映像等から被告人以外の犯行は考えられないと主張した。医学的争点として、専門家であるN医師は強い回転力が必要と証言した一方、J医師は中村I型と同様のメカニズムにより比較的軽微な転倒でも架橋静脈が破断し得る症例があると証言し、見解が対立した。 【判旨(量刑)】 東京高裁は、第3の事実について原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した。その理由として、J医師が5〜6歳児でも後方転倒により中村I型と同様のメカニズムで架橋静脈が破断した症例があると証言しており、これに対して検察官が十分な弾劾や反証を行っていないにもかかわらず、原判決がこの証言を具体性不足として排斥したことは、刑事訴訟における立証責任の観点から相当でないと指摘した。また、Aの頭蓋骨と脳実質の隙間が大きいという特徴や、前日の相撲による架橋静脈の脆弱化の可能性も排除できないとした。結論として、被告人以外の者に由来する「強い」力が加わらなければAの受傷状態がもたらされないとまでは断定できず、犯罪の証明がないと判断した。第1・第2の事実については事実誤認はないとして有罪を維持し、被告人を懲役1年6月・執行猶予4年に処した。量刑理由として、7歳の無抵抗の児童を植え込みに投げ込む行為は暴力で子どもを制御しようとするゆがんだ発想によるもので犯情は重いとしつつ、反省の態度や前科がないこと等を考慮した。