名古屋城天守閣整備事業における基本設計代金の支払いに対する返還請求,同実施設計契約の無効,及び同事業の差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 名古屋市は、特別史跡である名古屋城の天守閣について、戦災で焼失した天守閣を木造で復元する整備事業(本件事業)を計画し、公募型プロポーザルにより竹中工務店を優先交渉権者に選定した。名古屋市は竹中工務店との間で基本協定を締結した上、基本設計その他業務委託契約(業務委託料約8億4694万円)を締結し、竹中工務店が成果品を納入したことから、同額を支出した。さらに実施設計業務委託契約(約15億6384万円)も締結した。 名古屋市の住民である原告は、竹中工務店が本件基本設計契約上の義務を履行していないにもかかわらず業務委託料が支出されたとして、地方自治法に基づき、支出命令をした職員らに対する賠償命令、市長に対する損害賠償請求、及び本件事業に関する一切の財務会計上の行為の差止めを求める住民訴訟を提起した。 【争点】 主な争点は、(1)竹中工務店が基本設計の段階で文化庁の復元検討委員会の審査を受け文化審議会の諮問を経る義務を負っていたか(契約上の義務の履行の有無)、(2)段ボール箱5箱分の成果品を1日で完了した検査の適法性、(3)市長の指揮監督上の義務違反の有無、(4)本件事業自体の違法性(木造復元の必要性、文化庁基準への適合性、建築基準法上の問題等)である。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した(一部却下)。 争点(1)について、本件基本協定では、現状変更許可の申請は名古屋市の義務であり、竹中工務店の義務は申請手続における補助的作業(資料作成等)にとどまることが明確に定められていると認定した。復元検討委員会の審査を経ることが竹中工務店の負担や収益に多大な影響を与える重要な要素であることからすれば、そのような義務を負わせる場合は契約書面に明示されるはずであるが、そのような規定は見当たらないとした。業務要求水準書や技術提案書の記載についても、設計業務等に関する部分以外は直ちに契約内容とはならないと判断した。 争点(2)について、地方自治法234条の2第1項の検査の適否は、契約の内容や事前の監督の内容等を考慮して判断すべきであるとした上で、担当監督員による仮納品の点検・修正、主任監督員による下検査を経た上での検査であったことから、1日で完了したことをもって適正な検査でなかったとはいえないとした。 争点(3)について、市長が全責任を取る旨の指示書を発出していたとしても、具体的な指揮監督上の義務違反は認められないとした。 争点(4)について、本件事業を行うか否かには名古屋市に広範な裁量が認められるとした上で、全体整備検討会議における木造復元工事と耐震改修工事の詳細な比較検討の結果に基づく判断であり、裁量権の逸脱・濫用は認められないとした。パブリックコメントで否定的意見が約75%あった点も、市民アンケートでは約6割が木造復元に肯定的であったことなどから、裁量権の逸脱とはいえないと判断した。