生活保護廃止決定処分取消、費用徴収決定処分取消請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 生活保護を受給していた被控訴人(原告)の預金口座に、亡母Aの遺産に由来する多額の入金(約391万円)がありながら、これを福祉事務所に申告しなかったことが問題となった事案である。被控訴人の母Aは平成26年に死亡し、被控訴人はAの遺産である預貯金を引き出して自己名義の口座(本件口座)で管理していた。保護の実施機関である港区長から権限の委任を受けた処分行政庁は、被控訴人が不実の申請その他不正な手段により保護を受けたとして、生活保護法78条1項に基づき316万1825円の費用徴収決定を行い、さらに繰越金及び就労収入を考慮すると保護を必要としなくなったとして生活保護廃止決定を行った。被控訴人がこれら各決定の取消しを求めて提訴し、原審(東京地裁)が請求を認容したため、控訴人(港区)が控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)本件口座に入金された金員(本件金員)が生活保護法4条1項の「利用し得る資産」に当たるか、(2)被控訴人が本件金員を申告しなかったことが同法78条1項の「不実の申請その他不正な手段」に当たるか、(3)控訴審で追加された控訴人の新主張(遺産以外の原資による入金105万円の不申告、及び未申告収入・資産の合計477万円余の不申告)が許容されるかである。 【判旨】 控訴棄却。東京高裁は、原審の判断を維持し、以下のとおり判示した。 第一に、本件金員はAの未分割遺産としての性質を有するものと認められる。被控訴人はAの口座から引き出した金員をAの遺産として管理すべきものと認識しており、一部を一時的に流用することはあったものの、最長でも7か月以内には流用額に相当する金員を本件口座に預け入れてAの遺産として管理していた。被控訴人に金員を領得する意思があったとは認められず、出金・入金によって遺産の性質が失われたということもできない。 第二に、控訴人が控訴審で追加した新主張①(遺産以外を原資とする入金105万円)についても、各入金はAの遺産の預貯金等相当額を本件口座で管理するために一旦流用した分を戻したものとみるべきであり、原資がAの遺産でなかったとはいえないとした。新主張②(未申告収入・資産477万円余)についても、被控訴人が複数口座間で自由に資金を移動し一体的に管理運用していたとは認められず、全体としてみれば保護基準を上回る生活を享受したとはいえないと判断した。 以上から、被控訴人が「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたとは認められず、費用徴収決定及び保護廃止決定はいずれも違法であるとして、原判決を相当と判断した。