保護責任者遺棄致死被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、札幌市内のマンションにおいて長女B(当時2歳)を養育していたが、同居していたCと共に、令和元年4月下旬頃からBの体重が減り始めていたにもかかわらず、体重を維持するのに必要な食事を与えなかった。5月15日頃以降はBを外出させず、保育園にも預けなくなり、自らは出勤やCとの外出を繰り返した。Bは頭部全体にわたる皮下出血や顔面・肩部・胸部の2度熱傷など多数の外傷も負っていた。5月31日にはCがBの頭部の異変に気付いて病院に電話で問い合わせるほどの状態であったが、被告人はCと共謀の上、5月31日頃から6月4日午後5時頃までの間、Bに生存に必要な食事を与えず、医師による治療等の医療措置も受けさせずに放置した。その結果、Bは多臓器不全を伴う低栄養による衰弱状態に陥り、6月5日午前5時40分頃、搬送先の病院で死亡した。 【争点】 本件では、(1)Bが遅くとも5月31日頃までに生存に必要な保護を要する状態(要保護状況)にあり、その後保護を受けられずに衰弱死したといえるか、(2)被告人がBの要保護状況を認識しながらCと共に保護を与えなかったといえるか、が中心的に争われた。特に死因については、検察側の法医学者E医師が低栄養による衰弱死と結論付けたのに対し、弁護側の医師らは、Bは衰弱死するほどの飢餓状態にはなく、胃の内容物が逆流して上気道に詰まった窒息死の可能性があると主張した。また、被告人はBに必要な食事を与えていたと思っていた、Bが痩せていることに6月2日頃まで気付かなかったなどと述べ、要保護状況の認識を争った。 【判旨(量刑)】 裁判所は、E医師の医学的考察の合理性を詳細に検討し、死因は低栄養による衰弱死であると認定した。窒息死の可能性については、気道閉塞による窒息死で通常生じる生活反応や溢血点が確認されなかったこと等から否定した。弁護側医師の見解については、体温低下に関して茄子を用いた予備実験に依拠するなど客観性に疑問があるとし、低体温症の発症も認定した。Bの体重減少の時期については、E医師が推定する2〜3週間ではなく、4月下旬頃からの約6週間で体重の約18%が失われたと認定したが、それでも衰弱死との結論は揺るがないとした。被告人の認識については、主としてBの食事の世話をしていた被告人が体重減少に気付かなかったとする供述は不自然・不合理であり、外傷の認識も含め信用できないとした。量刑については、本件が児童虐待を動機とする保護責任者遺棄致死の同種事案の中でかなり重い部類に位置付けられるとしつつ、不保護に加えて別の犯罪事実が認定されている最も重い事案とは区別し、被告人の当時の若年や未熟さも考慮して、懲役9年(求刑懲役14年)を言い渡した。