特許権侵害行為差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「装飾品鎖状端部の留め具」に関する特許権(特許第4044598号)を有する原告会社及びその専用実施権者である原告X1が、被告Y1が製造・販売し、被告石福ジュエリーが販売するネックレス用留め具(被告製品)が、同特許の請求項2後段に係る発明(本件訂正発明2)の技術的範囲に属すると主張して、被告Y1に対し差止め・廃棄及び損害賠償(原告会社につき約1億2719万円、原告X1につき約1589万円)を、被告石福ジュエリーに対し不当利得返還(765万円)を求めた事案である。 本件には複雑な訴訟経過がある。原告会社は先に同一の被告製品について請求項1に基づく前訴を提起したが、東京地裁及び知財高裁は、被告製品はホルダーとホルダー受けを「噛合わせて係止」する方式を採用しておらず、構成要件を充足しないとして請求を棄却し、最高裁で確定した。原告会社はその後、訂正審判により請求項の訂正を重ね、再審請求も行ったが棄却された。さらに第四次訂正を経た上で、今度は請求項2後段に基づく本訴を提起した。原告会社の代表者の姪である原告X1に対し、本訴提起直前に請求項2のみを対象とする2年間の専用実施権が設定されていた。 【争点】 主要な争点は、本訴が前訴の蒸し返しとして訴訟上の信義則に反するか否かである。被告らは、前訴と本訴は当事者・被告製品・特許権が同一であり、請求項1と請求項2後段で「噛み合う」等の用語は同義であるから、本訴は紛争の蒸し返しであると主張した。原告らは、請求項2後段には請求項1にはない構成要件(ホルダー受けの吸着部材やネック部の径に関する限定)が追加されており、「噛み合う」の意義も異なるため蒸し返しには当たらないと反論した。 【判旨】 裁判所は、本訴は訴訟上の信義則に反し、または前訴確定判決の既判力に抵触するとして、損害賠償請求に係る部分を却下し、差止等請求を棄却した。 まず差止等請求について、前訴と本訴は訴訟物が同一であると判断した。請求項2はもともと請求項1の従属項であり、訂正により独立項とされたものの、前訴の審理対象であった請求項1の発明特定事項を全て含みその権利範囲を限定するものであるため、根拠となる請求項の違いは攻撃方法の差異にとどまるとした。 損害賠償請求についても、信義則違反を認めた。特許法施行規則上、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて用語は統一して使用すべきものとされており、「噛み合う」「噛合わせて係止」等の用語は請求項1と2で同一の意味内容を有すると解すべきであるとした。また、訂正が特許請求の範囲を実質上拡張・変更してはならないとする特許法126条6項の趣旨から、訂正により訂正前の技術的範囲が拡張することはあり得ず、被告製品が本件訂正発明1の技術的範囲に属しない以上、本件訂正発明2の技術的範囲にも属する余地はないと判断した。被告らが前訴で約3年間の応訴負担を負い、さらに再審にも対応した上で紛争解決を合理的に期待していたことも考慮された。原告X1についても、本件専用実施権の設定経緯から、実質的に原告会社のために共同原告となったものと推認し、固有の利益を有しないとした。