AI概要
【事案の概要】 本件は、北海道内の沿岸漁業者である原告らが、太平洋くろまぐろの小型魚(30kg未満)の漁獲管理をめぐり、被告国及び被告北海道に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。 国際的なくろまぐろ資源の回復のため、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は平成26年に小型魚の漁獲上限を過去の平均漁獲量の50%に削減する保存管理措置を決定した。これを受けて水産庁は、第1管理期間(平成27年1月〜平成28年6月)から、法律に基づく強制的な数量管理ではなく、行政指導による自主管理の形で漁獲上限の管理を開始した。しかし第3管理期間(平成29年7月〜平成30年6月)において、北海道では特定の漁協管内でわずか5日間に約356トンもの小型魚が漁獲されるなどして、漁獲上限111.81トンに対し実際の漁獲量が769.5トンに達する大幅超過が生じた。この超過分が差し引かれた結果、第4管理期間(平成30年7月〜平成31年3月)における北海道の漁獲可能量はわずか8.3トンとなり、原告らは事実上6年間にわたりくろまぐろ漁ができなくなったと主張して、得べかりし収入及び慰謝料の支払を求めた。 【争点】 (1) 被告国が資源管理法・漁業法・水産資源保護法に基づく法的措置を怠った違法があるか (2) 被告国が零細漁業者の利益への配慮を怠った違法があるか (3) 法律上の明文規定なく超過差引きを行った違法があるか (4) 被告北海道が漁業法・水産資源保護法に基づく法的措置を怠った違法があるか (5) 原告らの損害の有無及びその額 【判旨】 裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。 争点(1)について、規制権限の不行使が国賠法上違法となるのは、法令の趣旨・目的や権限の性質等に照らし著しく不合理と認められる場合に限られるとの判断枠組みを示した上で、第1管理期間の開始時点では、従来くろまぐろのような全国一律の厳格な数量管理の経験がなく、漁業実態に応じた制度設計や漁業者の理解醸成が必要であったこと、当時の漁獲実績がWCPFC決定の上限を下回っていたこと等から、行政指導による自主管理としたことは著しく不合理とはいえないとした。第3管理期間の開始時点についても、資源管理法に基づく数量管理への移行準備が進められていたこと、パブリックコメントや水産政策審議会でも慎重な意見が少なくなかったこと等を考慮し、同様に著しく不合理とはいえないとした。 争点(2)について、原告らの主張する零細漁業者への配慮義務は抽象的・観念的なものにとどまるとし、水産政策審議会が漁業共済事業等による減収対策の存在を勘案した上で基本計画を承認していた事実に照らせば、配慮を一切欠いたとはいえないとした。 争点(3)について、資源管理法に基づく漁獲可能量の設定は農林水産大臣の広範な裁量に委ねられており、前の管理期間の超過量を次期の漁獲可能量に反映することは都道府県間の公平や基本計画の実効性確保の観点から合理的裁量の範囲内であるとした。改正後の漁業法28条の規定も、従前の運用を明文化したものにすぎないと判示した。 争点(4)について、くろまぐろの資源管理は水産庁の通知等を通じて全国的に行われており、北海道だけが独自に採捕制限措置を採ることは困難であったとして、被告北海道の規制権限不行使も著しく不合理とはいえないとした。